カレンダー

2024/04
 
252627
282930    
       

広告

Twitter

記事検索

ランダムボタン

窓拭き

by 唐草 [2013/12/17]



 昨日、バスを待っているときに何か動くものが目の隅に映った。そちらを見ると、高所作業車のゴンドラに乗った人がビルの窓掃除をしていた。暇な待ち時間だったので、獲物を見つけた猫のように清掃員の動きを凝視してしまった。
 スクイージーが、窓ガラスを舐めるように滑っていく。無駄のないしなやかな動きで隙間なく窓ガラスを磨いていく。
 そのプロフェッショナルらしい滑らかな動きを見ていたら、何か記憶に引っ掛かるものがあった。
 なんだろう?この動きを昔に何度か見たことがあるよな気がする。喉まで出かかっているけれど思い出せない。悶々とした想いを残したまま、ぼくはバスに乗った。
 一晩経った今朝、なんの前触れもなく急に思い出した。昨日見た窓拭きが、ぼくの記憶の何を思い出させようとしたかハッキリと分かった。
 あれは、もう遥か昔のことだ。ぼくが高校3年生のときのこと。いっぱしの受験生らしく某大手予備校に通ってた。
 そこで見ていた黒板掃除を思い起こさせていたのだ。
 あの予備校の黒板掃除は、完璧と言えるほど徹底されていた。
 授業が終わると清掃のおばちゃんがやって来て黒板を拭き始める。ところが、使うのは黒板消しではない。濡れタオルを巻き付けた棒のようなものでも黒板を拭いていく。
 黒板消しで黒板を拭くと言うのは、チョークの粉を薄く引き延ばしているようなもの。いくら拭いても黒板本来の色は見えてこない。
 しかし、濡れタオルで黒板を拭くとまるで新品の黒板のように深い緑色を取り戻す。
 世の中みんな濡れタオルで黒板を掃除すれば良いのに。そう思うが、残念ながらもう一手間かけないと黒板は使えない。濡れたままでは文字が書けないらしく、しっかりと水分を取り除く必要がある。
 そこで登場するのがスクイージーだ。水がチョーク置きに溜まらないように雑巾をあてがってスクイージーを滑らかに操っていく。
 おばちゃんの無駄のない動きとともに黒板は新品のような輝きを取り戻していった。その流れるような動きを見るのが、予備校での唯一の楽しみだった。
 懐かしいような、寂しいようなスクイージーをめぐる小さな想い出。いったい何年ぶりにこんなことを思い出したのだろう。