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2015/03
    
       

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山へ

by 唐草 [2015/03/17]



 3月は、毎年ニートのような生活になる。ようするに毎日がヒマで同じことの繰り返しになるということだ。
 家でゲームをやっていたり、近所を自転車で走ったりと自由に時間が使えるのは快適だが、やはり単調さに飽き飽きしてしまう。
 思い切って違うことをしないと潰れてしまいそうだ。
 そうだ、山に登ろう。
 今日は1ヶ月季節を先取りしたように暖かいと天気予報は告げている。今日なら軽装で山に向かってもリスクは少ないだろう。
 山へ向かおうとしたのには、それなりの理由がある。
 ずいぶん前になるが、高尾山に登ろうと思った事があった。その時は、天候やらスケジュールの問題で断念せざるを得なかった。以来、ずっとチャンスをうかがってきた。今日こそベストな気がする。
 お昼過ぎの電車に乗って山へと向かった。
 ぼくが初めて高尾山に登ったのは、4才か5才の時。ウォーキング好きの祖父母に連れられて登った。そんな小さい頃だというのに、なぜかケーブルカーを拒み麓から全行程を歩いて登ったらしい。ぼくは覚えていないのだが、その健脚振りに驚いたという話を祖父母から何度か聞かされている。
 5才の時に登れたのなら、きっと今でも登れるだろう。
 登山口に着くと、多くの人がケーブルカー乗り場へと吸い込まれていく。かすかな記憶をつなぎ合わせると、ケーブルカー乗り場の右側に登山路があったはずだ。糸をたどるような感じで、そちらに向かうと確かに登山路があった。言葉にできないぐらいあやふやな記憶だけれども、実際の景色を見れば鮮明に思い出せる。なんだか不思議な感覚だ。
 登山道と言っても高尾山の場合、ほぼ舗装されている。それでも、道に入ってすぐに街との違いを感じた。
 本当に静かなんだ。
 なんの音もしないという人工的な静けさとは違う。耳をすませば、木々の葉が揺れる音や瀬を流れる水の音が聞こえてくる。それ以外の音は何も聞こえない。ケーブルカーでショートカットできる登山道に入ってくる物好きは少ないし、登り始めるには遅い時間なので人の気配がまるでない。自然の中にいるんだなと実感できる心地の良い静けさだった。
 だが、静けさへの喜びは長く続かなかった。
 初心者にありがちなことなのだが、自分の能力をまったく把握できていなかった。調子に乗ってハイペースで坂道を登っていたら完全に息が切れて、吐きそうになってしまった。まだ道半ば2kmも歩いていないのに。5才の頃にこんな事にはならなかった。ああ、当時より体力が落ちているのか。山頂を目にすることなく、ケーブルカーで下山することになるのか?誰もいない登山道の片隅にうずくまって青い顔をしていた。
 吐き気が収まると、ネガティブな感情も去っていった。
 ペースを抑え歩けば坂も問題無かったし、山腹のケーブルカー乗り場から先はピクニック気分で登れる穏やかな道が続いていた。
 こうして約四半世紀ぶりに高尾山の頂に立つことができた。
 帰りは、帰りでドラマがあったのだが、それは次回に。