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歌のお姉さんが怖い

by 唐草 [2016/09/23]



 先週土曜日のことになるが、近所の公園で開催されていた秋祭りに寄ったことを書いた。
 お祭の出店を冷やかしているときにあることを思い出していた。書こう書こうと思っていたのだが、他の話題に押されて書けずにいた。念願の新しいタブレットを手に入れてソワソワしていた一週間だったから仕方あるまい。これ以上、先延ばしにすると完全にネタ帳の肥やしになってしまいそうだからなんの脈絡も関係性もないけれど先週の土曜のことを語らせてもらおう。
 お祭のステージでは、市民グループなどが演劇や演奏を披露していたということは先週書いたのだが、ひとつ書かなかった演目がある。たぶんプロも出ていたんだと思う。ぼくが出店で得体の知れないインド料理を買っていると、急にステージからの音量が大きくなった。
 それまではボンヤリと演奏やらセリフが聞こえていた。マイクがあっても素人の演奏や声は、ざわめきの中にかき消されてしまう。でも、今聞こえている声は雑踏の中でもハッキリと聞こえる。これは、明らかにプロの声だ。しばらくすると、テンポのいい童謡が聞こえてきた。
 ぼくの並んでいる位置からは、ステージは見えない。でも、その歌声を聞けばプロの仕事だと確信できる。先ほどまでとはボリュームが違うし、歌唱能力も高い。いわゆる歌のお姉さん的な人が子供向けのステージショウを始めたのだろう。時々子供に語りかけながら、次々に歌を披露していった。
 ぼくは、恐れていた。一刻も早く公園を去りたいと考えていた。
 実は、怖いんだ。歌のお姉さんが。
 「三つ子の魂百まで」とは良く言ったものだ。小さい頃に刷り込まれた感情は、理性的に考えられるようになった今でも消えることはない。
 小さい頃のぼくは、歌のお姉さんを恐れていた。なんであの人はあんなにもハイテンションなのだろうか?どうして大きな声で歌を歌うことを強要してくるのだろうか?それが怖くて仕方がなかった。
 テレビ越しに子供番組を見ているときは平気だったが、イベントなどで生で見るのは怖かった。もし、ぼくと目があってステージに引きずり上げられ歌を歌わされたらどうしようという恐怖からステージを見ることはできなかった。小学生になっても低学年の頃は、怖かった。小学校のイベントで歌のお姉さんが、講堂に現れたときの恐怖は今でも忘れない。ステージで一緒に歌おう的なことを言って無造作に子供を選び出したときは、鬼にさらわれるのを待つような恐怖があった。
 なぜそんなハイテンションでキラキラしたものが飛び出してきそうな笑顔を振りまきながら、子供をさらうのか。笑顔こそが恐怖だと確信した。
 幸いなことにぼくはステージに連れて行かれることはなかった。代わりに犠牲になった友人の姿を見て安堵したものだった。
 そんな経験があるものだから、大人になった今でも歌のお姉さんが怖い。ぼくの中には微塵もない彼女らのハイテンションさが、異質すぎて怖いのだ。