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血にまみれた壁

by 唐草 [2017/07/08]



 夏の夜に繰り広げられる血を巡る戦い。激しい戦いの末に寝室の壁は、乾いた血でさび色に汚れている。
 そう、本格的にヤツらの季節になったのだ。
 蚊だ。
 二夜続けて蚊との戦いを繰り広げている。
 戦いの火ぶたを切るのはいつだって蚊の方。ぼくが気持ちよく寝ていると無防備に肌を晒している足を目掛けて攻撃を仕掛けてくる。ノホホンと寝ているぼくが攻撃に気が付くのは、蚊の攻撃が終わってから。強烈なかゆみが、ぼくを叩き起こす。
 足がかゆくて寝てられない。かゆみ止めを塗ってもすぐには効かない。蚊に刺されたことにイライラしながら横になっていると、あのイヤな音が聞こえてくる。
 プーンという独特の高い音。
 血を吸わせてやったんだからさっさとどこかに行ってしまえ。それとも、勝利を高らかと宣言するためにぼくの耳の周りを飛んでいるのか?はたまた吸い足りないので次なる攻撃を狙っているのか?
 蚊の飛ぶ音を聞きながら眠りにつけるほど穏やかな精神を持ち合わせてはいない。あの音を聞けば聞くほど目は冴え渡り、敵対心は高まっていく。
 もう、我慢できない。絶対に潰す!
 明かりを付けると蚊は、暗いところに隠れる。その習性を知っているので、あえて暗い場所に目を向ける。そうするとヤツらの姿は簡単に見つかる。ベッドと本棚の間の壁に身を隠している。そんなところでおとなしくしていても無駄だ。
 潰したときの血で壁が汚れるのがイヤだとかそう言う生易しいことを考えていると動きが鈍る。潰した後のことなど一切考えずに殺意だけを込めて鋭く動かなければ蚊を仕留めることはできない。
 一撃必殺を念じながら壁に穴が開くのを厭わないほどの勢いで掌底を叩き込む。手に伝わるのは、壁を殴った痛みだけ。
 そっと手をどけると血のシミだけが残されている。
 愚かな蚊め、ぼくの勝利だ。安眠は誰にもジャマをさせない。