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魚の骨と戦う

by 唐草 [2017/10/25]



 昼食に秋刀魚フライのトマトソース添えを食べた。ハーブを利かせたスッキリした味付けのトマトソースが、脂っぽい秋刀魚をサッパリとした口当たりに仕上げていた。食べる前にトマトソースよりもレモンの方が美味しいのではないだろうかと考えていたのだが、その考えが浅かったことを素直に認めよう。
 満足できる昼食をとった後、ぼくは早い帰路についた。バスの座席に腰を下ろして、座れたことに安堵したときのことだった。口の中の違和感に気づいた。
 奥歯の歯茎の皮が剥けてしまったような違和感がある。まるで熱いものを食べてしまって皮が剥けたときのような感じ。薄く柔らかい物が奥歯の近くで漂っているような落ち着かなさがある。
 アリクイのように舌をしなやかに動かして自分の左奥歯を確認してみた。歯茎の柔らかい皮が剥けているわけではないようだ。そりゃそうだろう。火傷するような熱いものを口にした記憶は無い。皮が剥けているのではなく、奥歯の生え際に何かが挟まっているようだった。不思議と歯と歯の間に何かが挟まっているような感覚はない。
 なおも執拗に舌を動かし、違和感の正体を突き止めようとした。どうも細くしなやかなものが挟まっているようだ。
 なんだこれは?
 先に食べた昼食のメニューを思い起こす。犯人は、秋刀魚しか考えられない。秋刀魚の小骨が、奥歯の隙間に挟まってしまったに違いない。
 口に広がる違和感は、耐え難いほどではない。それでも、おとなしく座っていると無意識のうちに舌を動かして奥歯を舐め回してしまう。背中の手の届かないような場所がちょっと痒いようなモヤッとした不快感がある。
 いくら舌を動かしても骨は取れなかった。気が付いたら舌の付け根が痛くなっていた。しかし、バスの中で口に手を突っ込んで骨を取るわけにもいかない。結局、家にたどり着くまでずっと奥歯を自分の舌でなめ回し続けることとなった。良い舌の運動になったということにしておこう。