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こける

by 唐草 [2018/03/14]



 久々にやってしまった。自転車で思いっきりこけた。
 転んだのは、もう何年も通っているいつもの通勤経路。車道を走っていたのだが渋滞の列が見えてきた。狭い道なので渋滞してしまうと自転車が通れるような路側帯のスペースは無くなってしまう。仕方がないので歩道に退避しようとしたときのことだった。
 道路と交差して歩道の縁石が低くなっているところを斜めに抜けようとしたのだが、気が付いたら真横にぶっ倒れていた。
 よく事故に遭う瞬間なんかは、周囲の光景がスローモーションのように見えるという。ところが、今回は違った。体勢を立て直さなくてはと思う間もなく、横転していた。完全に自転車を漕ぐ姿勢のままぶっ倒れたようだった。きっと後から見ていたらなんの予兆もなくいきなり倒れたように見えたことだろう。
 当の本人であるぼくでさえ、自分が倒れたことを理解するのに一瞬の間が必要だった。
 ただ、幸運がいくつも重なった。
 倒れたのが歩道側だったので、車に轢かれることはなかった。歩道に移ろうとしたときに別のチャリが走っていたので減速していた(たぶん20km/h以下だったはず)。無抵抗のまま倒れたので、手や足を突くことがなかった。そしてこれが一番重要なことだが、頭を打つこともなかった。
 これらの幸運のおかげで大事には至らなかった。自分の置かれた状況を認識して「いってー」と声を上げた後は、まるでロードレース競技で落車した選手のように素早く自転車を起こして普通に走っていった。もちろん強打した手や足は痛かったけれど、自分の体が壊れてしまったような危険信号は感じられなかった。
 駐輪場に着いてから改めて自分の様子を確認した。お気に入りのジャケットの袖の肘が破けていた。ズボンもヒサ周辺が擦れていて1ヵ所小さな穴が開いていた。手袋をしていたのに両手の掌が真っ赤になって熱を持っていた。でも、すべての指がちゃんと動くし、膝も挙げられるし、腰も回せる。骨の異常はない。帽子はまったく汚れていないので、絶対に頭は打っていない。肩掛け鞄には、ズボンと同じような擦り傷があった。でも、中のタブレットは無事だった。
 自転車乗りの多くは、何年かに一度落車を経験する。今回ぼくが転んだのは、合流の角度が悪かったのもあるが、後輪のタイヤが減っていたことも無視できないだろう。大事に至ることもあれば、今回のぼくのように幸運に恵まれて軽傷で済むこともある。怪我の程度に関わらず、転んでしまうのには気のゆるみがある。
 そして転んでからようやく思い知るのだ、自分の気のゆるみを。