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予定外の散歩

by 唐草 [2018/05/12]



 今日は大人の都合で浅草橋駅まで行くこととなった。積極的な動機ではないのでイマイチ乗り気になれない。キャンセルするわけにもいかない。これが大人の都合の悲しいところだ。
 1時間以上かけて目的地へとやってきたものの、肝心の用事は15分程度で済んでしまった。用事そのものよりも、参加した事実の方が大事だったりするからこんなことになってしまう。大人の都合は面倒だ。
 ハッキリ言って拍子抜けである。なんのために1時間近くかけてここまで来たのだろうかと自問せざるを得ない状況だ。このまま帰ってしまうと、今日一日を無駄にしたという思いが強く残りそうだ。何でもいいから何かしないと徒労感だけが残ってしまう。
 さて、何をしよう?
 自宅を中心とした行動範囲の東端が秋葉原までのぼくが、さらに東の浅草橋駅周辺にいるというのはとても珍しい事だ。このエリアは、ぼくの脳内にある地図で白い靄がかかっている未開の領域である。ちょっくら自分の足で歩き回って、距離感と位置関係と街の密度を自分の体で理解してみるか。
 妙な表現をしたが、要するに散歩をしようと決めた。
 地図でしか知らなかった土地を実際に歩いて理解する。端から見るとただの散歩にしか見えないかもしれないが、これはぼくの趣味である。
 歩くと決めたら動きは速い。神田川と隅田川の合流地点を見ようと足を進める。残念ながら水辺には降りられなかったので、両国橋まで進む。スカイツリーが見えたので、観光客らしく記念撮影。川岸に並ぶ雑多な風景を何を撮りたいのかよく分からない欲張りな構図で写真に収める。どこから撮ってもスカイツリーは、出来損ないの合成写真のように嘘くさく写る。大きすぎて遠近感が狂ってしまうのだ。
 両国橋から隅田川を眺めると、くすんだ緑色に淀んだ水面が広がっている。いかにも都市の河といった沈んだ色である。そんな水面をじっと眺めていたら、ミズクラゲの姿が見えてきた。そうか、もう海が近いんだな。少しだけ潮風と磯臭さを感じたような気がする。
 さて、次はどこに向かおう。両国方面に進むか秋葉原に戻るか迷ったが、冒険心より帰巣本能の方が強かったようだ。気が付くと秋葉原のある西へと進んでいた。でも、このまま靖国通りを進んで秋葉原に戻るのは能がない。と言う訳で、趣向を凝らして秋葉原に至るまでの区間で神田川にかかるすべての橋を渡るという小目標を設定した。
 想像以上に橋が多く、ゴールにしていた万世橋までに何個の橋を渡ったのかよく分からなくなってしまった。
 でも、それでいい。数えるのが面倒になるぐらいたくさんの橋があるという体験が最も重要なのだ。