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カメラが欲しくなった

by 唐草 [2018/05/17]



 今日は、ビッグサイトで開催されている展示会に行くハメになった。非常にタイトなスケジュールとなってしまったので、授業を終えて昼食を取る暇すらなくダッシュで会場に向かうことになってしまった。まるで仕事熱心なビジネスマンのような振る舞いである。
 展示会会場に入るには、スーパーマーケットのチラシのような薄っぺらい招待状と名刺が必要。残念なことに根無し草のぼくは明確な所属がないので名刺を持っていない(カラクサラボ名刺しかない)。仕方がないので急ごしらえの架空の名刺で会場入りを果たすこととなった。所属も肩書きも全部嘘。いっそ名前を偽名にしても良かったかもしれない。
 嘘で固めた身分で展示会を見て回り、忙しい午後を過ごすこととなった。
 巨大な会場を足早に巡ってヘトヘトになっていたぼくは、そのまま電車に揺られて帰るほどの体力も残っていなかった。ちょっとリフレッシュしてからじゃないと途中で力尽きてしまう。
 と言う訳で、鉄道の駅へと向かう人の流れから離れて人気の少ないフェリー乗り場の方へとひとり歩いていった。
 夕日に染まる海を見ようという魂胆である。
 ぼくは水辺の風景が好きだ。先ほどまで疲れ果てて顔が紙のように白くなっていたことなんてすっかり忘れて、タブレットで写真を撮りながら海沿いの歩道を歩き回っていた。海を見ることが少ないので、ついついはしゃいでしまう。水際のフェンスが邪魔なので塀によじ登って撮影を試みたりと元気いっぱいである。
 もう少し水面に近い位置で撮影をしたい。そう考えて一歩一歩海へと近づいて行く。フェンスまであと1mぐらいのところまで来たところで、急に不安がこみ上げてきた。このままタブレットを落としたらどうしよう。ストラップもないも付いていない剥き身のタブレットは、あまりにも無防備だ。ワンミスですべてを失ってしまう可能性があると言うことに気が付かされた。
 ぼくの隣では、一眼レフを持ったオッサンがフェンスから身を乗り出して撮影をしていた。首にかけるベルトのある一眼レフなら、例え手が滑ったとしてもカメラを海に落とすことはない。いくらでもアグレッシブな姿勢で撮影を楽しめる。
 その姿を見たとき、ものすごくカメラが欲しくなった。やはりカメラは、撮影をする際の人間の動きを考えて作られた製品である。心の底からそう思った。
 でも、そのあとすぐに気が付いた。ぼくに必要なのはカメラじゃなくて、肩にかけるベルトなんだってことに。