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充電ライフの落とし穴

by 唐草 [2018/09/26]



 ぼくの朝は、鞄から2本のケーブルを抜くところから始まる。栄養を送る点滴のケーブルでもなければ、新鮮な空気を送るケーブルでもない。ありふれたUSBケーブルである。鞄に給電しているわけでもないし、鞄がデータ通信しているわけでもない。鞄にはタブレットとスマホが入っていて、鞄へと伸びる2本のケーブルはこれらのモバイル機器に電気を送っているのである。鞄の中で充電しているのは、夜寝ている間に充電を済ませて、なおかつ忙しい朝にモバイル機器を忘れないようにするぼくなりの工夫である。
 今朝、いつものように鞄から2本のケーブルを引き抜こうとした。だが、鞄へと伸びていたのは、銀色の太いUSB Type-Cケーブル1本だけであった。給電されていたのはタブレットだけだった。スマホへとつながっているはずの白く細いケーブルは、鞄の脇で脱皮した蛇の脱殻のように力なく横たわっていた。
 しまった!昨晩寝るときにスマホにケーブルをつなぐのを忘れていた。
 ぼくにとってスマホは、なくてなならない存在というわけではない。なにせ電話がかかってくることは、数ヶ月に1度ぐらいだからだ。それでもスマホが無いと困る。
 ぼくにとってポケットにすっぽりと収まる小さなスマホは、時計そのものなのである。体質的に腕時計ができないので、スマホの時計がもっとも身近に置ける時計だ。タブレットを時計代わりにするのは大きすぎるし、スマートさに欠ける。
 スマホを持っていないということは、時計無しで1日を過ごすことを意味する。生活が破綻するほどの支障はないが、様々な場面で無駄が出てしまうだろう。
 スマホを確認してみるとバッテリー残量が、47%と表示されていた。普通なら特に問題のない残量かもしれないが、ぼくの廉価スマホだとそうもいかない。バッテリー残量35%以下になるとまたたく間に残量が減っていく。「百分率ってなんだろう?」と首をかしげてしまうような信用のおけない表示なのである。47%と言う表示は、死刑宣告を読み上げられているような危機的状況でしかない。
 そこでぼくは、スマホを職場で充電することにした。
 東京の地下鉄路線図のように絡まっている家のケーブル置き場から1本のUSBケーブルを優美さに欠ける力技で抜き取った。
 職場について愕然とした。マイクロUSBケーブルを手に取ったつもりが、ミニUSBケーブルを持ってきていたのである。これじゃ、PS4のコントローラーぐらいしか充電できない。こうして、ぼくのスマホは出かけ先で静かに息を引き取ったのである。