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ミントの敗北

by 唐草 [2018/10/16]



 6月の末頃に「ミントの苗をもらったが成長が需要を上回っていて、このままでは我が家はミントに没するかもしれない」ということを書いた。摘んでも摘んでも葉っぱが減っているように見えない脅威の成長力を目にして、「ご近所のバイオ兵器」と呼ばれているミントの増殖力をこの身で体験することとなった。
 秋を迎えた今、その心配は完全に杞憂だったことが明らかになった。我が家が爽やかな香りとともに緑に没したなんてことはないし、根の成長で植木鉢が割れたなんていうささやかな問題すら起きてはいない。それどころかミントの苗は瀕死である。
 ぼくが連日連夜モヒートを飲み続けたわけでもない。自家製歯磨き粉を作って息を爽やかにしていたわけでもない。自然の摂理が、家庭の庭最強との呼び声が高いミントを打ち破ったのである。
 たぶん、きっかけはこの夏の異常な暑さだったと思う。夏の初めのミントは我が家を覆い尽くそうとする強い意志を感じざるを得ない勢いで茎を伸ばし、フラクタル図形の繰り返しのように葉を増やしていた。だが、ある程度大きくなった時点で成長がピタリと止まってしまった。葉っぱは力なく萎れ、茎は老人の腰のように曲がり、色も黄色味を帯び始めていた。どうも大きくなりすぎたことと暑すぎたことで蒸散の勢いが増し、普通に水をやっているだけでは足りないようだった。
 夏バテ気味のミントをさらなる不運が襲った。
 たぶん昆虫と思われる正体不明の生き物が、ムシャムシャと葉っぱを食べだした。元気なミントだったら、虫の大家族を養いつつも成長を続けていただろう。でも、夏バテのミントには無理な相談だった。穴の空いた不格好な葉っぱが次々に増えていって、最終的にはほぼ丸裸になってしまった。ミントのように防虫効果さえ期待できる香りのきつい葉っぱを食べつくす虫とは一体何者なのだろうか?鉢を見ても虫の姿は見えなかった。でも、朝になると鉢の周りには小さな糞がたくさん転がっていた。何らかの生き物が夜間に行動しているのは確かなのだが、その姿を捉えることはできなかった。
 あれだけ大量のミントを摂取して成長した生き物ならきっとミントの匂いがするだろう。食べたらミント味かもしれない。昆虫なんて絶対口にはしたくないけれど妙な考えが浮かんだりもした。
 そして、ミントも終わりを迎えることだろうと信じていた。
 だが、腐ってもバイオ兵器の二つ名は伊達じゃない。
 葉っぱが1枚もないのになぜか枯れない。寒くなり始めた今も、丸裸なのに驚異の生命力を見せどうにか生き延びている。ひょっとしてこのまま冬を乗り切ってしまうのではなかろうか?来年の春になったら地面から新しい芽を出してもう一度緑の侵攻を始めても不思議はない。恐ろしくもあるが、来年の春が楽しみでもある。