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幻のネタ

by 唐草 [2018/11/11]



 ここに掲載されたなかった幻のネタの数は少なくない。諸般の事情で掲載されなかったというと訳ありな感じがして、あたかもぼくが機密に関わっているかのようである。だが、そんなスパイのような出来事は身の回りにあるものでもない。
 ネタが実現されなかった理由は、実にくだらない。
 ずいぶん昔にも書いた記憶があるのだが、「あっ、このネタで記事を書こう」と閃いたものの何を閃いたかを忘れてしまうという情けない事実が幻のネタを生み出している。
 眼の前で起きている何かを見てピンと来る場合もあるし、何かを読んでいるときに思いつくこともある。ぼくの脳に刺さるようにインスピレーションを与えてくれた何かを言語化してアウトプットしようと思いつく。だけれども、唐突な思いつきは思いついたときと同じように唐突に記憶から蒸発してしまう。残されるのは、スナック菓子を食べようと袋の中に手を突っ込んだものの1つも残っていなかったときのような喪失感だけである。
 だから、何か閃いたらすかさずスマホなどのメモ帳アプリに記録を取るように心がけている。メモを取るようになってからは、閃きを見失ってしまうことはだいぶ減った。思いついたという幻を見ていたのではないかという不安も解消することができた。
 先日、会心のネタが思い浮かんだ。しかも、テーマを思いつただけではない。話の流れからオチまですべて思いついた。もう、ぼくの頭の中に1回分の記事がまるまる存在するような状態だった。手元にキーボードがあれば、打鍵音が情熱的なメロディーに聞こえるぐらいの勢いでタイピングすることが出来たに違いない。
 しかし、運命のめぐり合わせとは酷なものである。ぼくの目の前にはキーボードもなければ、メモ帳もなかった。だって、思いついたのは入浴中だったんだもの。入浴で血の巡りが良くなりリラックスできたことが、よい閃きを与えてくれたのだろう。気だるい眠気もスッキリしたことだし。風呂から上がったら一気に書き上げてしまおう。
 確かな手応えを感じて風呂から上がった。だが、いざキーボードの前に座ったら1文字も打てなかった。風呂で何を思いついたのかまったく思い出せなかったのだ。
 この事実は、ぼくを大きな不安に陥れた。数分前のことを思い出せないなんて、記憶障害でもあるのではないだろうか?気持ちよく火照った風呂上がりの体が、内側から冷えていくのを感じた。これが先週の話である。
 それから1週間考えて、ある結論に達した。
 たぶん、あの日のぼくは風呂に浸かりながら一瞬寝て、ここの記事を書く夢を見た。きっとそうに違いない。夢に見たネタは思い出せないが、思い出せないことはネタにできる。これが夢から得た教訓である。