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ドクペ

by 唐草 [2018/12/05]



 ライチ味のサイダーの販売が終わってしまって意気消沈気味の今日このごろ。ライチ味のサイダーを美味しいと感じていたわけではない。それよりもマイナーで変なドリンクを飲んでいる事それ自体を楽しんでいたのである。自覚はなかったが、他とは違う自分に酔っていたのかもしれない。ぼくは110円で酔える安い男である。
 他に面白いドリンクは売られていないだろうか?職場には、コカ・コーラ、キリン、サントリーなど様々な会社の自販機が設置されている。すべての自販機の商品をじっくりと眺めたことはない。もしかしたら、ライチ味のサイダーのようなちょっとマイナーなドリンクを売っている自販機があるかもしれない。そう考えたら、自販機が乱立するこの職場がお宝の埋まったジャングルのように思えてきた。まだ見ぬ(というかぼくが知らないだけだが)ドリンクを求めて旅に出ることにした。
 と思ったその矢先、灯台下暗しという諺を身をもって理解することとなった。
 ぼくの所属する棟の1階の自販機のラインナップがなかなかマイナー揃いだったのである。チチヤスブランドのコーヒー牛乳なんて初めて見た。
 だが、ぼくの心を射止めたのは別のドリンクである。
 ドクターペッパーが売られていたのである。
 炭酸好きだが、ぼくはドクターペッパーを飲んだことがなかった。高校の時の友人が如何に不味いかを熱く語っていた姿が今でも脳裏に焼き付いているので、どうしても手が出せないでいた。だが、同時にシュタゲ好きとして「ドクペ」を飲んだことがないのはモグリだとも思っていた。友人の助言を信じるべきか、オタクとしての挟持を貫くべきか、自販機を前にしてぼくの心は大きく揺れた。
 結局、買ってしまった。高校時代の友人をたった120円で敵に売り渡したのである。
 一口飲んだ感想は、シンプルなものだった。
 「これ、杏仁豆腐のシロップの味だ」
 それ以上でもなく、それ以下でもなく、紛れもなく杏仁豆腐のシロップである。ということは、これが杏フレーバーなのか?よく分からない。高校の友人が訴えていたほど激マズではない。甘い物好きのぼくなら平気で飲める。ただ、ぼくとしては高貴な知的飲料だとは思えなかった。
 飲んでいる時は良かったのだが、問題は飲み終わってからだった。合成香料の香りが歯の隙間に詰まってしまったかのような不快な感覚に襲われた。口の中には何も入っていないはずなのに、自分の吐く息がドクペ風味なのである。ぼくにはこれが耐えられなかった。飲むだけなら問題ないが、飲んだあと不愉快になるのはゴメンである。やはり、友人の主張が正しかったようである。