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脂の出処

by 唐草 [2018/12/06]



 指を這わせるようにしなやかに動かす。指の軌跡を追えば、きっと複雑な模様を描いていることだろう。だが、普段のぼくはそんなこと一向に気に留めない。というか、いちいち考えていたらタッチスクリーンなんて使っていられない。
 ぼくは確実にスマホ依存である(ぼくの場合はタブレットだから違うなどと詭弁を唱えるつもりはない)。時間さえあればペタペタとスクリーンに指を這わせている。ものを食べているときに触らないようにしているのが、精一杯の抵抗である。
 今朝、エレベーターを待つ数十秒さえ我慢できずにタブレットをいじっていた。エレベーターが到着したのでタブレットの電源を切った。電源を切ると8インチの大きな画面は不愉快な鏡へと変化する。目にクマのあるみすぼらしい貧乏神のような貧相な男の顔が映るのである。もはや呪いのタブレットだと言って差し支えない不愉快さである。ぼくは、それが自分の顔であることを認めるのを拒みながら画面から目を離すのである。
 だが今朝は違った。男でも惚れるようなイケメンの顔が映ったわけではない。その逆だ。何も映らなかったのである。
 ぼくの顔がのっぺらぼうになったというなら怪談である。でも現実世界には、驚きもなにない。
 タブレットの画面がぼくの手脂と思われる油膜に覆われていて、あたかもノングレアスクリーンのようになっていただけである。ただた汚い話である。
 カバンからマイクロファイバーの布を取り出し画面を磨き上げた。貧相な顔を写すには十分すぎるほどキレイになったのだが、画面の一部だけは薄っすらとくもったままだった。いくら強く拭いても完全には汚れが取れない。
 何故取れないのだろうか?
 くもっているのは画面の右下。一番触る部分である。となると考えられる理由は2つある。
 1つは触る機会が多いので、画面が指との摩擦で顕微鏡レベルで摩耗しているという可能性だ。雨垂れ石を穿つの現代版である。タップでガラスを穿つといったところだ。
 もう1つの可能性は、ガラスが脂を吸ってしまったという可能性である。24時間365日脂っこい指でペタペタ触り続けている内に分子レベルの隙間に手脂が詰まってしまって自然に脂が浮き出ているという可能性である。過去にゲームのコントローラーのゴムの部分が手脂を吸ったことがあるので、同じことが起きたのではないかと心配しているのである。こっちが原因だったら、実に不愉快である。