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腕時計を探せ

by 唐草 [2019/01/11]



 大人の事情で腕時計が必要になってしまった。「時計なんていらない。時間を確認するだけならスマホで十分だ!」と声高に主張するこのぼくが腕時計を探しているんだ。これは一大事である。別に主義主張を曲げたというわけではない。もっと現実的な問題がぼくの目の前に立ちはだかっている。要するにスマホ持ち込み禁止の場所に行かなくてはならなくなったのである。
 腕時計じゃなくて懐中時計でもいいんだけれども、今回の事案だと片手がふさがってしまうのがちょいと厄介。しかも時間がとても重要なので絶対に時計が欠かせない。屋内なんだけれども手に持った物を簡単には置けない場所なので、悔しいが腕時計に軍配が上がる。
 ぼくは日常的に腕時計をしていない。さて、困ったぞ。どうしよう?
 この期に大人らしい腕時計を買うべきか?いや、どうせ今回限りしか身につけることはないだろう。良い物を買っても絶対に宝の持ち腐れになる。それにぼくは時計に興味が無いので、どんな時計を見ても同じに見えてしまう。車に興味がない人が、どんな車を見てもタイヤが4つある乗り物にしか見えないのと同じである。買うなら100均とかで売っている使い捨てでも惜しくないような腕時計で十分かもしれない。
 どうしたものかと思案していたら、何の前触れもなく急に思い出した。
 そう言えば、1本だけ腕時計を持っていたはずだ。銀色の文字盤に黒い革製のベルトが付いたシンプルな腕時計がぼくの頭の中に浮かんできた。数えるほどしか身に着けたことはないが、十数年前に誰かからもらったような記憶がある。これで問題解決。新たな時計を買わなくても済みそうだ。
 とは言うものの、ここ何年もその時計を見た記憶がない。いったいどこにしまったんだろう?ぼくは時計を求めて何の手がかりも無いまま自分の家を引っ掻き回すハメになってしまった。
 別に我が家は狭い。だが、物を探すとなると厄介だ。散らばって雑然としてから物を探しにくいというのとは間逆なのである。ぼくがテトリスで隙間を埋め尽くすような感覚で収納をしているから厄介なのだ。押入れの中は、適切な順番に物を取り出さないと物が取り出せない。まるで収納物で箱根細工のカラクリ箱でも作っているかのように物が収まっている。カラクリを解いてコンテナや箱を取り出せたからと言って安心してはいけない。コンテナの中も順番通りに物を取り出さないと2度と蓋を閉められなくなるような立体パズルとなっているし、箱はマトリョーシカのように入れ子になっている。
 こんな有様なので、時計の捜索は遅々として進まなかった。しかも結局、時計は見つからなかった。押し込み強盗に荒らされたような無残な部屋が出来上がっただけである。時計を持っているというぼくの記憶が間違いだったのだろうか?それともまだ解けぬ立体パズルがどこかに潜んでいるのだろうか?