カレンダー

2017/08
  
  
       

広告

Twitter

記事検索

ランダムボタン

拒絶という要求

by 唐草 [2019/01/16]



 いつものように数カ月ぶりに髪を切りに行った。なんだかんだで毎年1月に髪を切っているが、これは「新年で気分も新たに」というような志の高い理由からではない。だいたい3ヶ月に1度のペースで髪を切っているので、1月がちょうど散髪の周期にあたっているだけだ。
 理髪店の良いところは、無計画にふらっと寄ってもその場で髪を切ってくれることである。予約がないので思い立ったその日に行けることが、無計画に思いつきで動くぼくにはピッタリである。ただ、運が悪いと店が混んでいて何十分も待たされてしまうこともある。勢いで散髪できるかは、運次第なのである。
 今日、店は空いていた。これなら待たされることなく髪を切ってもらえそうである。店のガラス戸を勢いよく開けた。
 だが、ぼくの期待は外れてしまった。予約した客がいるので30分程度待ってもらうことになると告げられたのだ。「理髪店なのに予約するような軟弱な男がいるとは情けない。男なんだから勢いで髪を切れ」と訳の分からない言葉が喉まで出てきたが、グッと我慢した。
 30分も待つのは退屈だ。時間の浪費である。
 という訳で、ぼくは間髪をいれずに踵を返そうとした。
 「じゃあ、帰ります」とハッキリと言ったら理髪師の態度が急変した。「予約の時間まで少しあるので先にどうぞ」と空いていた席へと案内してくれた。結果として、待たずに髪を切ってもらうことができた。幸いなことに予約していた客も、理髪師の華麗なハサミさばきと変則的な順序での理髪のおかげで待たずに済んでいた。
 ぼくは別にクレームを入れた訳でも、小さな子供のようにダダをこねた訳でもない。事実を受け止め、冷静に「待ってほしい」という店側の提案を拒絶しただけである。それなのに最良の結果を得ることに成功した。この経験は初めてではない。似たようなことが何度かあるし、ここのネタとして取り上げたこともある。
 ぼくとしては、受け入れがたい妥協案をキッパリと断っただけである。ぼくの望む主張を押し通そうとしたつもりはまったくない。でも、妥協案を一刀両断することで、結果として譲歩を引き出すことに成功している。
 客商売のプロは、駄々をこねるクレーマーまがいの客のあしらい方は十分に心得ているのだろう。でも、その逆、つまりぼくのように妥協案を全拒否するのには不慣れなのだろうか?店側としても売上が0になるのは避けたいのだろう。こちらから妥協を迫るのではなくて、相手の妥協を拒絶して別の妥協案を引き出させるというアプローチは意外にありなのかもしれない。ちょっと姑息な気もするけどね。