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ベルトがなじまない

by 唐草 [2019/01/17]



 先日購入した1,000円の激安腕時計。メッキの深みのない鈍い輝きも、ただ黒いだけのベルトの合皮の色合いも、見るからに安物である。でも、なんだかその安っぽさがおもちゃ的なかわいさに見えてきた。これは、ぼくが幼かった頃にお菓子のおまけに目を輝かせたのと同じかもしれない。チープさが醸し出す幼さに似た可愛らしさというものが存在しているのだろう。
 だが、見た目の安っぽさとは裏腹にチープ腕時計は手強い存在となっている。比喩でも何でもなく、物理的な手強さである。
 合皮のベルトが、恐ろしく硬いのだ。黒さも相まってまるでオフロード用の硬いタイヤのようにさえ見える。硬すぎるがゆえに腕につけるのも一苦労。でも、つけるまでが大変だというわけではない。当然のことながら、つけてからも大変なのだ。
 チープ腕時計を身に付けているぼくが考えていることは唯一つ。
 「手錠をかけられたらきっとこんな感じなのだろう」。それだけだ。
 とにかく手首の骨にあたって痛い。手首を動かしてもベルトの形が変わらないので、肉に食い込むことさえある。キーボードを叩くときも手首の骨に引っかかるし、手を洗うときも無駄に存在を主張してくる。この頑強なベルトからは、「持ち主の手首の形に屈するものか」という強い意志さえ感じられてしまう。それほどまでに硬いのだ。
 ぼくが腕時計に慣れていないので、必要以上に違和感を覚えている面もあるだろう。身に着けていれば徐々にぼくの腕に馴染んでくるだろうと信じて身に付け続けているが、一向に和解の気配は感じられない。未だに敵意むき出しな感じがひしひしと伝わってくる。
 何より悲しいのは、腕時計で時間を確認するという習慣が身についていないので、腕時計をしているにもかかわらずスマホで時間を確認してしまうことだ。これでは手首をいたずらに痛めつけるためだけに腕時計を巻いているのと同じである。まさに手錠状態。時計の本体が当たる部分の皮膚が赤くなっているし、本当に良いことなんてなにもない。ベルト交換という選択肢があるのかもしれないが、きっとベルト単品の方がこの時計よりも高価だろう。そんな本末転倒なことはしたくない。
 値段しか見ないで安時計を嬉しそうに購入したぼくが悪いのは、自分でもよく承知している。分かっているけれど、ますます腕時計が嫌いになりそうだ。