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鏡の国の名刺

by 唐草 [2019/02/22]



 今日、急遽名刺が必要になった。まっとうな社会人だったら名刺ぐらいいつでも持っているのかもしれない。でも、ぼくのようにあっちへフラフラ、こっちへフラフラと一か所に根を生やすことなく動き回っていると名刺が刷り上がる前に肩書が変わっていることも少なくない。今は、かなり安定した場所に腰を据えたつもりなんだけれど、半年近く経った今でも部署の名前が決まっていない。そんなこともあり、名刺を作りたくとも作れない状況が続いている。
 しかし、急な来客が決まり四の五の言っていられる状況ではなくなった。とりあえず、仮称でもいいので自前で名刺を作ることにした。
 名刺の印刷データはすでに用意してある。昨年、某展示会に潜り込むために作ったやつである。それを再利用することにした。幸いなことに名刺印刷用紙も手近にあった。
 名刺印刷用紙を使うのは初めてだったが、便利な用紙だった。すでに一般的な名刺サイズにミシン目が入っているので専用アプリにデータをセットして印刷すれば、ハサミもカッターも使わずにA4用紙1枚から10枚の名刺を作り出すことができる。素人さんには、便利な品だろう。
 でも、ぼくのようなデザインを生業にしている人間からすると絶対に許せない仕様なのである。一切の余白なく名刺サイズにミシン目が入っているので塗りシロがない。つまり、0.1mmでも印刷がずれれば、ベタ塗りの背景の隅に白い部分が残ってしまうのだ。これは絶対に許せない。
 普通、印刷物を作るときは、切り取られる部分まで色を塗る。こうしておけば印刷がずれても、裁断がずれても余白が生じることがない。
 ぼくの手元にある自分の名刺データは、下半分が青で塗りつぶされているツートンな名刺である。これを名刺用紙に印刷すると、上に余計な青が入るか、下の青が少し欠けている状態になる可能性が高い。
 そこでぼくは考えた。名刺を上下互い違いに印刷すれば、青い部分は青い部分でまとまるので多少ずれても問題ないはずである。さっそく、名刺のデータを反転させながら用紙いっぱいに配置していった。
 最高に冴えたアイディアである。印刷の仕様、プリンタの性能限界をきちんと理解したデザインプロセスである。
 だが、出来上がった名刺の半分が何かおかしかった。よく見たら、文字が反転して、鏡文字になっていた。
 180度回転させるところを間違って上下反転させていたのだ。アイディアは冴えていたが、それに浮かれてイラストレータの操作をミスっていた。どうしよう、この鏡文字名刺。インパクトあるからちょっと使いたいんだけど、なんかいいアイディアはないだろうか?自撮り用?