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人間工学の勝利

by 唐草 [2019/04/24]



 先日、アーロンチェアを奪取した話を書いた。1,000字を超える記事を一言で要約すると「ぼくの体には合わないかもしれない」という悲しい結論だった。人間工学に基づいたデザインなので姿勢良く座らないとバランスが悪い。ぼくのように猫背で机に肘をつき、さらには椅子の上でもあぐらをかくようなダメ人間のためには作られていないということを痛感したのだ。人間工学なんて小さい頃から良い椅子に座り続けたセレブのためのものだ。
 向上心と呼ばれる類の考えがぼくの中に少しでもあれば、アーロンチェアを得た機会を利用して猫背を直して椅子に快適に座れるようになろうと考えるのかもしれない。でも、そんな真っ直ぐな向上心は猫背の体の中には宿っていない。ぼくからすれば先に述べたような考えは、軍服に体を合わせる的な発想であり到底受け入れられないのだ。
 そんな訳で、せっかく得た高級椅子なのにぼくにとっては座面がメッシュで尻が蒸れないだけの椅子でしかなかった。
 だが、今週に入って考え方が180度変わった。今のぼくはアーロンチェアの実力を認めるだけでなく、それまでの己の考えを恥じ入るまでに改心している。改心のキッカケは、ぎっくり腰である。
 発症から1週間を経過したので腰の状況は普通に歩ける程度まで改善している。とはいえ、重いものを持ち上げようとするとまだ腰に違和感がある。また、長時間立っていたり、逆に長時間座り続けているといつも以上の速さで腰が悲鳴を上げる。腰に違和感があるとストレッチなどで筋をほぐしたくなる。でも、本格的なストレッチをできるほどには回復していない。運動をする飼い主のまねをする飼い犬のように小さく体を曲げるのが精一杯だ。
 一気に30歳ぐらい歳をとってしまったぼくの体。仕事中も小さな痛みから逃げようと所在なげに小さく動き回っている。でも、一箇所だけなんの問題もなく同じ姿勢を続けられる場所がある。それが、アーロンチェアに座っている時なのだ。
 モデルのようにきちんと姿勢良くアーロンチェアに腰を掛けると、メッシュ地の背もたれと座面が優しく体を包んでくれる。そのおかげで体の重さが均等に分散して腰への負担が完全に消えるのである。腰への負担が消えるので、気がつくと自然に先日まで唾棄するほどに嫌っていた姿勢の良い座り方をしている自分がいる。
 これが人間工学の力なのか。胡散臭い眉唾でも、デザイナーの妄想でもなかった。もう未来永劫姿勢良く座ることをここに誓っても良い。体を痛めて初めてアーロンチェアの実力を理解することができた。文字通り怪我の功名と言ったところだろう。