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New スリッパ

by 唐草 [2019/07/09]



 先日、10年以上、たぶん15年ぐらい使っていた愛用のスリッパに別れを告げた。スリッパって毎日使うものなので、わりと消耗品のイメージがあった。しかし、そんなイメージを愛用のスリッパは見事に覆してくれた。
 そのスリッパは、伊勢丹かどこかのデパートで購入したちょっとお値段の張るスリッパだった。それでも2,000円はしなかった。ベージュの本体に若草色の刺しゅうのラインが入ったデザインで、特筆すべき機能は何もないごく普通のありふれたスリッパだった。
 見た目こそ地味なスリッパだったが、耐久性だけはずば抜けていた。15年も履いていたのでソールは、ぼくの足の形に凹んでいた。よくぶつかる部分は、布がすり減って下地が見えているところもあった。刺しゅうの糸も途切れ途切れになっていた。もっともダメージが深刻だったのが底面。底面と本体を縫い付ける糸は完全に摩耗して、縫い穴だけが残っているようなありさまだった。まさに満身創痍のスリッパといった見た目となっていた。
 しかし、スリッパとしての基本性能は一切失っていなかった。糸が無いにもかかわらず、底面はしっかりと本体に付いていた。つま先だけが剥がれてしまうというありがちな破損すらなかった。刺しゅうの糸も切れてはいたが、全体がほどけることはなかった。貼られた布こそ薄くなっていたが、むしろぼくの足に合わせて最適化が進んでいたとすらいえる状況だった。
 見た目は薄汚いぼろいスリッパかもしれないが、まるでぼくの足型のようで吸いつくような履き心地に仕上がっていた。このフィット感と15年の耐久性を考えれば、2,000円の買い物は安いと言えるだろう。
 15年の月日を経て着実に寿命に近づいているはずが、機能面でダメージの蓄積を感じさせる不安定さはなかった。このまま一生履き続けられるという錯覚さえ覚えるほどだった。
 ところが、最後の瞬間はあっけなくやってきた。うちの猫がスリッパの上で盛大にゲロを吐いたのだ。スリッパは黄土色の吐瀉物の下に埋もれてしまった。ゲロの中からスリッパを掘り出すも、布の隙間や破れかけた部分が修復不能なほど汚れていた。なにより生臭かった。これではゲロの中に足を突っ込むようなものである。
 こうしてぼくの足に完全フィットしたスリッパは、15年にわたる長い生涯の幕を閉じた。
 そして、新しいスリッパを購入した。高いスリッパは値段相応の活躍をすると学んだぼくであったが、同時に猫のゲロの前では高級さなんて無力だということも学んだ。だから、今度スリッパは380円。3年使えれば満足だという気分での購入である。
 まだ足に馴染んでいないので履き心地は最悪である。常に左右を逆にしているような落ち着きのなさが足元に付きまとう。ぼくの足に馴染むのにどれぐらいの時間を要するのだろう?仮に馴染んだとしても、先代のスリッパのような一体感は得られないだろうなぁ。