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少し焦げる程度に

by 唐草 [2019/08/11]



 ぼくは「主食は菓子パンです」と自己紹介しても良いと思っているぐらいに菓子パンが好きだ。菓子パンに区分されるものなら、甘いものでもしょっぱいものでも分け隔てなく食べる。高級志向が強いということもない。もちろんお高い菓子パンの方がおいしいのは揺るぎない事実だ。でも、コンビニ菓子パンの駄菓子的なおいしさも捨てがたい。
 まさに菓子パンへの博愛主義と言ったところだ。
 ぼくが菓子パンを購入する場合、暗黙のルールが存在している。
 自宅以外で食べるときは、カレーパンを買わないというルールだ。
 別け隔てなくすべての菓子パンに愛情を注ぐと語った舌の根も乾かないうちに、あからさまカレーパン差別である。これには深い理由がある。
 カレーパンの抱える問題を考えてほしい。揚げパンの中にカレーを詰め込むという狂気の発想は、カロリーの悪魔にそそのかされたとしか思えない。カレーの発する強力な香りは、同じ空間にいるすべて人間を巻き込むスメハラだ。
 だが、こんな一般論的な問題を気にしてカレーパンを避けているのではない。もっと個人的な思い出がぼくの振る舞いを支配しているのである。
 あれは、ぼくが小学3年生ぐらいだったときのことだ。親の車に乗せられて、家からちょっと離れたスーパーマーケットを訪れたときのことである。育ち盛りの少年は腹を空かせていた。おやつを欲したぼくは、スーパーに併設されていたパン屋でひとつの菓子パンを選んだ。そう、それがぼくの運命を左右するカレーパンだったのである。
 店頭に並んでいたカレーパンは揚げたてだった。当時のぼくはまだ何も知らないバカな小学生だったので、カレーパンが揚げパンであるということを理解していなかった。
 そんな無垢な少年にとって揚げたてのカレーパンは、まだ見ぬ世界へと足を踏み入れたような衝撃があった。それまでの短い人生の間に食べてきた冷めたカレーパンとは、完全に別物であった。揚げたてのパンは、コロッケのようにサクサクで、温かい油がパン生地を軽やかに膨らませていた。一口で揚げパンというものが、どういうものなのかを理解できた。中のカレーもアツアツだった。それまで「カレーパンの中のカレーはカレーではなくカレー味の何か」だと思い込んでいた誤解が氷解した。
 もう何十年も昔の記憶なのだが、あの時の舌から脳へと続いたこの驚きはぼくの中に鮮明に残っている。それ以来、ぼくは決心したのである。カレーパンを食べるときは、可能な限り温めて食べると。少し焦げる程度に温めると本当に美味しい。温められないなら食べないほうがマシである。
 ぼくの重い愛情ゆえにカレーパンを避けているのである。