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完全制覇への障壁

by 唐草 [2019/09/06]



 お盆休み明けからぼくの食生活に大きな変化が訪れている。大きいと言っても主食が米からピザに変わったわけではない。
 平日の昼食は、職場の食堂で済ませることがほとんどだった。しかし食堂は、お盆休み明けから今月の中頃まで工事のため閉鎖されてしまっている。田舎の山の頂に位置する職場で食堂が閉鎖されてしまうというのは、食糧危機を意味する。この施設の中で食料にありつくことは不可能に等しい。セミを捕まえ、野草を摘むぐらいしか選択肢は残されていない。
 そんなワイルドな生活はしたくない。文化的に過ごすにはお弁当を持ち込むより他にない。しかし、灼熱の季節にお弁当を持ち込むのは、セミを食べるぐらいに危険な行為だ。だからぼくは、人里を離れる間際に位置する辺境のコンビニを利用することで食糧難と食中毒に対抗している。
 コンビニのお弁当は割高な印象が拭えない。容器の底が嵩上げされた弁当は、味は美味しくとも腹を満たしてくれない。それどころか、心さえ貧しいものにしてしまう。ぼくは弁当類は避けて、おにぎりと菓子パンにすべてを委ねることにした。
 毎日のようにお気に入りの品を手に取っていたら、好物であっても味に飽きてしまうだろう。ぼくの場合は更に厄介だ。おにぎりのパッケージを開けるという行為そのものに飽きてしまう可能性が高い。なにか刺激を見いだせなければ、コンビニを利用することを諦めてしまうだろう。そして、遠方から弁当を持ち込み食中毒で倒れるのだ。
 悲惨な事故を避けるために、ぼくはあるテーマを自分に課した。それが、おにぎり全種類完全制覇である。ぼくは、普段の食事で冒険をすることはない。コスパを優先することが多いし、口に味が残るような濃い味のものも避けている。その結果がシーチキンマヨのヘビーローテーションだ。
 この夏のぼくはチャレンジャーだった。定番と初購入のペアでおにぎりを買うように努めた。今までは「たこの値段なんて許せない」とか「お茶がなきゃ絶対に食べたくない」とか言っていた品を手に取る機会が増えた。感想は様々だ。ぼくの食わず嫌いだったこともあるし、口に合わなかったものもある。
 順調に進んできたおにぎり制覇計画であるが、ここ数日進展がない。腑抜けた顔で定番のおにぎりばかりを食べている。
 その理由は、実に悲しい。ぼくが許せるおにぎりからチャレンジを開始したので、現時点で残っているのはぼくが許せないおにぎりばかりなのだ。今のぼくにとってコンビニのおにぎりコーナーは、まるで小さな子供が好きなものから食べていって嫌いな野菜だけが残ってしまったプレートのようなものなのだ。