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時間の感覚が

by 唐草 [2019/10/12]



 我が家でできる最大限の台風への備えって、いったい何なんだろう?
 数日前から「ヤバいぞ!ヤバいぞ!」と警告が続いていた台風19号。気象衛星から送られてくる雲の姿を見ると本州の半分を余裕で飲み込めるほどに大きいことが見て取れた。気圧や風速などの観測データからも勢力の激しさを知ることはできた。
 繰り返される警告や巨大な雲の姿、数字で表される気象情報から台風の真の姿をどれだけ想像できるだろうか?残念ながらぼくは、全然想像できていなかった。
 繰り返される警告は、どこか他人事のよう。それは、まるで無責任に煽るだけの映画のTVCMを興味なさげに眺めているようなものだった。また、雲の姿や観測データを見聞きしても、ゲームのボスのステータスを攻略サイトで眺めているようで、ただ数字を読んでいるに過ぎなかった。
 実感はほとんど伴っていなかったが、それでも一応台風への備えをしようと体を動かした。その準備はやる気のない防災訓練に参加しているときのようなものでしかなかった。何が必要になるかとかこんなことが起きたらどうしようという一歩先を見据えた行動は何もなかった。何も考えずに雨戸を閉めて、植木鉢を軒下に移動させたぐらいだ。話題となった養生テープでガラスの飛散を防ぐ方法など試そうとすら考えなかった。隣家の窓に米の字のようにテープが貼られているのを目にしてもだ。
 雨戸を閉め切った部屋のベッドでゴロゴロしながら音だけで空模様をいる探っていた。雨戸に打ち付ける鋭い雨粒の音を聞いているだけでは、この台風が史上最大級だと呼ばれる理由は分からない。十分に激しいが、いつもの台風と大きな違いがあるとは思えない。
 閉め切った部屋でぼくが考えているのは停電のこと。サーバだけを心配しているのである。自宅のガラスが割れるとか、ましてや屋根が飛ぶとか、床上まで浸水するとかは、これっぽっちも起こるとは思っていない。ただ想像力が貧困なだけなのだろう。
 雨戸を閉め切った部屋に閉じこもって、すでに何時間が経過しているのだろうか?昨晩23時ぐらいからずっとこの調子だ。雨音が激しくて熟睡できなかったせいか、何度も居眠りをしている。寝ても起きても暗い部屋で、雨戸を揺らし雨粒を壁に叩きつける風の音しか聞いていない。時間の感覚が麻痺し始めてきている。こんなにも長時間の風雨は初めての経験である。しかも、19時現在、まだ上陸すらしていない。この事実に気が付いたとき、ようやく台風の規模を机上の数字ではなく目の前の自然現象として理解できた。まだ、これが続くのか。恐怖が芽生えた瞬間である。
 いつだって気が付いたときには手遅れなのである。