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-3℃

by 唐草 [2019/11/28]



 夏の終りにエアコンを買い替えていた。買い換える前のエアコンは満身創痍だった。リモコンは数年前から壊れていたし、エアコンのフロントパネルも破損して脱落していた。荒い不織布のようなフィルターと細かい金属板が連なった繊細なラジエターが剥き出しだった。その様は、どことなく激戦を戦いきった2足歩行ロボットの成れの果てを思わせるものがあった。顕になった機械という男子を興奮させるフェチ的なものである。
 リモコンが無いので温度調整すらできなかったし、10年以上使っているのでエアコンの性能も落ち始めていた。省エネの観点からもこれ以上使い続けることにメリットは見いだせなかった。消費税増税前の「今買わなきゃ損!」な雰囲気に飲まれたこともあって、十数年ぶりにエアコンを買い換えた。
 新しいエアコンは、とにかく静か。室外機の位置が変わった影響もあるが、最低限の動作しかしないのでほとんど音を立てない。なにより感激したのはリモコンの便利さである。数年来、エアコンは扇風機と同じように直接ボタンを押して使うものだった。ベッドに転がりながらエアコンをオン・オフできる便利さを思い出し、今までの苦労は何だったのだろうかと膝から崩れ落ちそうにさえなった。
 当たり前のことに感動して泣いたり笑ったりしている間に夏は去った。それから数ヶ月、真新しい白いエアコンは沈黙を続けていた。だが、この寒さが沈黙を打ち破るきっかけをもたらした。今度は冷房ではなく暖房としての出番である。
 ベッドの上に寝転がりながら、リモコンのオート運転ボタンを押す。賢い最新のエアコンは、1秒も迷うこと無く温風を吹き出し始めた。
 しかし、その風はぼくには暖かすぎた。「ちょっと肌寒いぐらいの、20度程度で良いんだよ」と独り言ちながらリモコンの温度ボタンを押す。ボタンを押すごとにリモコンの中の数字は変化していったが、その数字は気温ではなかった。ボタンを3回押したリモコンには「-3℃」と表示されていた。
 絶対温度じゃなくて、相対温度なのか。何を基準にしているのだろうか?想像もしていなかった表示に戸惑いを覚えてしまった。また、温度設定の範囲が±3℃と狭いことにも驚いた。だが、それでもぼくには十分である。だって先代の満身創痍エアコンはリモコンが故障して以来、温度設定すらできなくなっていたのだから。温度を変えられるだけでもありがたい。