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目覚めの呼吸

by 唐草 [2020/01/18]



 今日は、センター試験に参加してきた。もちろん今年も監督官側だ。雪の舞う鈍色の空のもとで行われた試験では、きっと多くのドラマが生まれたことだろう。試験に全身全霊を注ぐ受験生たちと違って、ぼくはただ試験会場を歩くことしかできない。そんなぼくも実は陰ながら戦っていたのだ。守秘義務に違反しない範囲でぼくの戦いの記録をここに記そう。
 すべての監督官が共通の悩みを抱えている。それは試験中に暇だということ。何事もなく試験が粛々と進んでいくことは素晴らしいことだ。でも、平穏すぎる進行は心の隙きを生む。その隙は眠気となって監督官たちを襲うのである。魔の手は、ぼくにも襲いかかってきた。「鉛筆を落とした受験生がいたら、ウインブルドンで活躍するボールボーイ顔負けのスピードと正確さで鉛筆を持ち主に返してやる」と誓っていたにも関わらずだ。ぼくの誓いなんて口約束以下の薄っぺらいものでしかなかった。鉛筆が床に落ちる音に耳を済ませていたのもつかの間、危うく睡魔に飲み込まれそうになってしまった。
 だが、ぼくは易々と睡魔に負けたりはしない。あくびを噛み殺して周囲に睡魔を悟られないように振る舞いながら睡魔と戦っていた。
 あくびは、大きく息を吸い込み体温を冷ますことで眠気を軽減する反射反応のようなものらしい。つまり、呼吸法ひとつで睡魔を追い払うことができるのだ。とは言え、大口を開けるあくびと同等の呼吸をすまし顔で行うのは難しいだろう。
 そこで、ぼくは考えた。
 寝る前にヨガの呼吸法をベースにした「眠りの呼吸」をやることがある。鼻から息を大きく吸い込み、しばらく息を止めて、最後にゆっくり吐き出すという呼吸のサイクルだ。前に書いたが、胡散臭い呼吸法の効果はバカにできないものがある。
 眠りの呼吸を逆再生すれば目が覚めるのではないだろうか?これが必死に睡魔と戦った結論である。今考えると寝ているとしか思えない結論だが、試験会場にいるぼくは真剣だった。
 口からゆっくり空気を吸い込み、数秒息を止めて、最後に鼻から吐き出す。試しに数度この呼吸をしたらすぐに違和感があった。これは副交感神経を刺激して覚醒に近づいている証拠ではなかろうか?
 全然、そんなことはなかった。ただのできの悪い口呼吸。すぐに息苦しくなったし、終いには鼻水が出た。