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蔓延した病

by 唐草 [2020/02/01]



 すでに戦いは始まっていた。気がついたときは、いつも手遅れなんだ。
 古いアニメ映画のセリフをもじったような安っぽい言葉だが、これが今日のぼくの偽らざる本音である。
 残念なことにぼくは戦いの火蓋が切って落とされていることに気が付かなかった。行動を起こしたときは既に手遅れだった。
 マスクは、もう完全に売り切れていた。
 近所のスーパーのマスク売り場は、そこだけ穴でも空いたかのようになにもなかった。箱入りの安いマスクも、立体加工が売りの高価なマスクも何ひとつ残っていなかった。ただ陳列棚の奥が見えるだけだった。棚の奥まで見通せたのなんて震災以来のことかもしれない。
 スーパーがダメならドラッグストアはどうだろうか?歩いていける範囲の店を2件訪れたが、収穫はなかった。店舗の入口近くの一番いい陳列棚が不自然に空いているだけだった。きっとここには、マスク50個入りぐらいの大きな箱が並んでいたのだろう。帰り際にコンビニを覗いてみたが、単品売りの高級マスクまできれいサッパリ売り切れていた。
 本来、この季節はマスクがもっとも店頭に並ぶ季節である。インフルエンザウイルスと飛び始めたスギ花粉から身を守るために、多くの人がマスクを着用する。マスクが日本人の正装であるかのように老若男女みな一様にマスクで顔を隠す。膨大な需要が生まれても、供給が追いつかずにマスクが消えるなんてことは起きなかった。でも、今年は違う。
 マスクの消失は、考えるまでもなく新型コロナウイルスのせいである。目に見えぬウイルスへの恐怖が、人々をマスクの購入に走らせているのだろう。
 ぼくは新型コロナウイルスに対して慌てふためかず事態を静観していくつもりだった。でも、そんなのんびりとした姿勢では、すでに人々に蔓延してしまった恐怖という病との戦いに着いていくことはできなかった。ぼくがマスク争奪戦の勃発に気がついたときは、完全に手遅れだったのである。
 このままマスクが品薄な状態が続けば、マスクの奪い合いも起きるだろう。人道援助で中国にマスクを送ることさえ非難の対象となるかもしれない。
 もうぼくらの心は、新型コロナウイルス感染するかもしれないし、隣のあいつは感染者かもしれないという疑心暗鬼の病に蝕まれているのである。