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見知らぬ誰かを想う

by 唐草 [2020/02/10]



 PCでもスマホでも文字入力をする際に予測変換を活用している人は多いだろう。ぼくにとって予測変換機能は、なくてはならない仕事の相棒である。
 日本のビジネスメールは定型文の応酬である。メールの冒頭と末尾は、紙の手紙文化から続いている意味の薄い言葉で飾られている。「いつもお世話になっております」から始まり「よろしくお願いいたします」で終わる様式である。合理的に考えれば不要どころか無い方がメール的にはふさわしいとも言えるこれらの挨拶だが、マナーを守ってるよアピールをするためには欠かせないのが実情である。
 下手したら毎日十数回も打つことになるこれらの定型句をいちいちタイプしていたら仕事は停滞してしまう。コンピュータの力を借りてさっさと進めるのが、現代の賢いやり方だろう。
 ぼくのPCだと「いつも」と打つと「いつもお世話になっております」と出てくるし、「よろ」と打てば「よろしくお願いいたします」と出てくる。このように楽して入力された文字は、受信者も読んでいないだろう。それでも、予測変換はせっせと文字をぼくの代わりに入力してくれるのである。
 面倒な仕事を楽にしてくれる予測変換だが、いかなる時も有用かといえばそうではない。ときにおせっかいな候補まで表示してしまう。おせっかいが特に顕著になるのは、名字を入力したときである。
 返信メールが無駄に長くなるという理由で署名機能を使わないぼくは、メールの末尾にサインのように自分の名前を打っている。名字を打ち終えると、予想変換がいくつかの候補を示してくれる。Googleの変換ソフトを使っているのだが、ぼくの本名はいつも候補の3番目。同じ名字の知らない人の名前と同じ名字の会社名の次になってしまう。
 予測変換候補第1位の名前は、女性の名前っぽい字面である。予測変換以外で見たことも聞いたこともない名前なのだが、きっとぼくと同じ姓の中では一番の有名人なのだろう。芸能人なのだろうか?それともスポーツ選手なのだろうか?
 本名を打とうとするたびに見ることになる女性の名前。いったいこの女性はどんな人なんだろう?まるで片思いのよに見知らぬ同姓の人のことを思う毎日なのである。