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行き交う紙幣

by 唐草 [2020/03/23]



 「出かけるついでに買ってくるものはないか?」と聞かれたので、ある品の購入を頼んだ。同じ店で買えるものなので、それぞれが買いに行くよりまとめて買ってきたほうが効率がいい。ぼくが買いに行っても良いのだが、今日は相手の好意に甘えることにした。なんだか、いつも甘えているような気もする。
 子供にお使いを頼んだわけではないので、お金の精算は帰ってきてからすることにしていた。後払いを選んだ理由は、買い物を依頼したぼくが商品の値段をちゃんと把握していなかったせい。4,000円ぐらいだった気もするし、6,000円ぐらいだったようにも思える。なんとなく「高い」という漠然とした印象しかないが、1万円札があれば余裕で買えるということだけは確信していた。
 数時間後、頼んでいた品とともにレシートを渡された。お値段は、約4,500円だった。
 精算をしようと財布を開いたら、よりによって1万円札が1枚しか入っていなかった。足りないよりはマシだが、おつかいのお駄賃に5,000円を渡せるほどの器量を持ち合わせてはいない。「お釣りをちょうだい」と言いながら、ぼくは1万円札を手渡した。
 しかし、アンラッキーなことに相手も細かいお金を持ち合わせていなかった。相手の財布の中には5,000円札しか入っていなかった。お互いになんとも大雑把な財布である。
 向こうは「500円ぐらいおごってやる」というようなことを言って、ぼくに5,000円札を渡してきた。「しめしめ、500円の儲けである」と思うよりも、こんなことで500円の貸しを作るほうがイヤだというのが率直な感想だった。
 ぼくは、非常用資金としてクリアじゃないクリアファイルの中に隠してある1,000円札を取り出した。そして、「500円は買い物をしてくれたお駄賃だと思って受け取って」と言いながら、1,000円札を押し付けるように渡した。
 相手もぼくと同じく500円の借りを作りたくないのか、後日500円を返すと言って譲らなかった。
 ちょっと買い物を頼んだだけなのに2人の間で3種類の紙幣が行き来することになった。効率よく買い物をするために頼んだはずだったが、精算の仕方がんなんとも水臭く面倒な流れになってしまった。