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by 唐草 [2020/05/23]



 ペットを取り巻く環境の進化は日進月歩である。特に医療分野の進歩は目覚ましい。昔は動物病院でしか買えなかった高機能のエサが、ディスカウントストアに並んでいる。数年前まで不治の病だった病気の治療薬が完成して、注射だけで治療が済むようになったりしているらしい。今の犬猫の治療は、人間と同じぐらい高度で幅広いものになっている。
 ぼくは生まれたときから猫と暮らしてきたので、まるで自分が通院してきたかのように動物病院の進歩をこの目で見てきた。ぼくが幼かった頃の動物病院は、獣臭さを消毒液で上塗りしたような独特の匂いがあった。治療器具も金属の色が冷たく光っていて実務的だった。幼かったせいもあるが、そこで自分が治療されるかと思うと背筋が冷たくなる思いがした。
 今の動物病院は、ほとんど人間の病院と同じだ。明るく温かい内装。エコーなどの人と同じ高度な機器が活用されている。体温計を尻の穴に突っ込むこと以外は、ぼくが治療を受けていても違和感は無いだろう。
 こうした変化とともに、人知れずに変わった項目があったことを思い出した。
 動物病院で薬をもらうと人の処方箋と同じような幅広の封筒に入れて手渡される。袋そのものは、今も昔も変わらないように見える。でも、間違い探しのように一箇所だけ変わった部分がある。ペットの名前が書かれる部分だ。
 今の袋は、たいてい「〇〇ちゃん」と書いてある。でも、昔は違った。確かに「〇〇号」と書かれていた。
 幼かったぼくは、動物のことを「号」で呼ぶことを知らなかった。当時のぼくの中で「号」というのは、乗り物に名前だけ使うものでしかなかった。だから、跨ることすらできない我が家の小さな猫の名前に「号」が付くのが不思議で仕方がなかった。たぶん、「号」というのは家畜に使われていたものなのだろう。シャーロック・ホームズに「銀星号事件(シルバーブレイズ号事件)」というのがある。この短編は古い訳に準じているので、今でも号が使われている数少ない例だろう。
 時代の変化とともに「号」は「ちゃん」へと変わった。この変化がペットを取り巻く環境の変化をよく表しているのだろう。こんなことを思い出したので、時代に逆行するように家の猫のことを「号」付で呼んでみた。振り向きすらしなかった。