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2足のスリッパ

by 唐草 [2020/06/25]



 梅雨らしい天気が続いている。晴れれば夏のような蒸し暑さだし、雨が降れば春先のような肌寒さになる。気ままな雲の流れ次第で毎日季節が3ヶ月ぐらい進んだり戻ったりしているようだ。
 前日との気温差が10℃近くなることだって珍しくない梅雨時に一番頭を悩ませるのは、その日の装いである。前日は短パンにTシャツという夏休みスタイルだったのに、翌日は長袖長ズボンを身につけることもある。目まぐるしく変わる自然の営みの前では、天気予報だってまだ十分に当てにならない。何を着るかは自分の肌感覚だけが頼りだ。
 一貫性のない天気のおかげで、タンスは衣替えを途中で放棄したかのような季節感のない状態になっている。エアリズムの横に厚手の長袖シャツが入っているし、靴下もスネまである普通のものとクルブシが顕になるスニーカーソックスが混在している。
 気温の乱高下のせいで服装と同じくぼくを悩ませているものがある。それがスリッパだ。
 肌寒い日は靴下を履いてスリッパに足を通している。冷たいフローリングは体温をドンドン奪うので、スリッパと靴下が必要だ。一方、暑い日は靴下なんか身に着けずに素足でペタペタと歩き回りたい。だが、多くの猫が暮らす我が家の床は至るところに猫砂が落ちている。裸足で歩くと硬い猫砂を踏んで痛い思いをすることになる。だから、どんなに暑くてもスリッパは欠かせない。
 夏に快適に過ごせるスリッパを求めた結果、ぼくがたどり着いたのは足裏に当たる部分が畳敷のスリッパだった。このスリッパを履くと畳には暑い夏を気持ちよく過ごす日本人の知恵が詰まっているんだと実感できる。畳に合わせるように、このスリッパには鼻緒がついている。まるで雪駄のようだ。
 暑い時は最高の鼻緒付き畳スリッパ。だが、ちょっとでも寒くて靴下を履いてしまうととたんに邪魔者になる。鼻緒のある履物は、素足か足袋でないと身に着けられないからだ。
 ここ数日のように蒸し暑い日と肌寒い日が交互にやってくると靴下を履いたり裸足だったりする。そのせいで部屋には2足のスリッパが出されたままになっている。油断していると靴下を履いているのに畳スリッパに足を通してしまって、鼻緒に小バカにされてしまう。小さな自室にだらしなく置かれた2足のスリッパは、梅雨の鬱陶しさを象徴しているようである。