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家の衣替え

by 唐草 [2020/10/11]



 ノコギリを手に取り、枝が伸びに伸びた庭の木と対峙した。
 夏の間我が家の庭木には、直射日光からリビングを守る天然のカーテンとしての役割がある。日光を遮れるように春先から手を付けずに放置していた。野趣あふれる緑のカーテンは、その役目を終えた。これからは、寒さをはねのけるために陽の光を取り入れたい。だから、枝を落とすことにした。家にとっての衣替えのようなものだ。
 自然の成り行きに任せて枝を放置しているといろいろなものが寄ってくる。一番うるさいのは植木屋。毎年、茂った葉を目ざとく見つけては、安い値段で枝を整えるとインターホンを鳴らす。見積もりも何も無いのに、どの口で安いと言っているんだか。また、夏になると小さな虫たちの小さなオアシスにもなっているようだ。カナブンなどの甲虫がやって来ることもあるし、今年はセミの抜け殻が残されていた。こんな小さな緑でも生き物のサイクルを支えていることには驚きを隠せない。
 今年は特筆すべき来訪者があった。ここに顛末を書いたが、鳩がやってきて巣作りをした。残念ながら孵らなかったが、鳥にとっても貴重な緑の空間なのかと感心した。
 涼しくなった今でも常緑樹の庭木は季節にそぐわない濃い色の葉を茂らせているが、夏ほど生命があふれている感じはしない。カメムシぐらいしか見ていない。これなら人間の快適さのために切っても問題はなさそう。
 脚立にまたがって枝にノコギリを入れようとしたら、枝の隙間から鳩ノ巣が見えた。雑に枝を組み合わせただけの巣なのだが、風雨にさらされながらも2ヶ月以上形を保ってきた。このまま枝を落とせば巣も落ちる。
 巣の中には、卵から出られなかったヒナのミイラでも残っているのだろうか?それとも虫が掃除をしてしまって何の痕跡も無いのだろうか?
 怖いもの見たさのような感覚でノコギリを進めていった。
 ものの数分で枝は地面に落ちた。巣を覗くが、そこには小さな灰色の羽が1枚引っかかっていただけだった。巣を突くと絡み合った枝はバラバラとほぐれ、あっという間に姿を消した。もう、この夏我が家に鳩がやってきたことを示すものはない。