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時空を越えて

by 唐草 [2021/04/11]



 親の終活を手伝うという建前で押入れを整理した。
 押入れは、しまったはずのものがなくなっていたり、捨てたと思ったものが顔をのぞかせたりと摩訶不思議なことが起きる場所。ちょっとした4次元空間と呼んでも過言ではない。どんなに少なく見積もっても3.5次元はあると主張したい。
 今日は記憶にないコンテナが見つかった。「宝物」というラベルが貼られている。遊び心いっぱいだが、中身をまったく想像できない。ワクワクとドキドキが入り交じる気持ちでフタを開けたら、15年以上前に集めていた何種類もの食玩フィギュアがゴロゴロ出てきた。
 そう言えば集めるのに夢中になっていたなぁ。集めていた当時は自慢げに並べていたが、何かの機会にしまってそれっきりだったようだ。今となっては、集めることが楽しかっただけで、集まったものには興味がなかったんだとよく分かる。
 次に、押入れの上の天袋の中身をすべて出そうとしていたら一番下に大きなパネルが2枚置かれていた。サイズはB1ぐらいある。取り出す前に親に確認をすると引っ越したときからそこに置きっぱなしになっていたそうだ。先住者が忘れていったのか、意図的に放置していったのかは定かではない。確かなことは、30年近く押入に眠ったままだったということだけ。
 これがお宝鑑定番組の前フリだったらちょっと期待できる展開かもしれない。でも、お宝が我が家にあるわけがない。
 それぞれパネルには、目一杯引き伸ばしてボゲ気味になった写真が貼られていた。1枚は犬を散歩させている渋めの中年男性。ぼくは誰だか分からなかったが、親は即座にアラン・ドロンだと判断した。もう1枚のパネルは古いバイクにまたがった金髪の男性だった。こっちは分かる。映画『大脱走』だ。なぜ一度も見たことのない映画なのに分かったのかは自分でも謎だが、スティーブ・マックィーンであることに間違いはない。
 どうやら会ったこともないし名前も知らない先住者は映画スターのポスターを部屋に飾るようなタイプだったらしい。これが我が家の押入れから時空を越えて判明した事実。やはり押入は4次元空間だ。