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ヘソ

by 唐草 [2019/11/12]



 昨日からヘソが異様に痒い。寝ている間にボリボリと掻いてしまったのだろう。朝起きたらヘソの中が赤剥けになっていた。今も、体の真ん中がムズムズと痒いままだ。
 こんなにもヘソのことを考えるのは人生で初めての経験だろう。ぼくはセクシーなヘソ出しコーデとは無縁だし、6つに割れた腹筋に酔いしれることもない。ぼくの腹は、生っ白くメリハリのない丸い締まりのない見た目だ。そんなみすぼらしい腹の中央に空いた穴なんかに誰も興味はないだろう。
 ヘソが痒くなったことで、ひとつ大きな発見があった。ぼくは痒くなるまで自分自身の腹にヘソの穴があるなんて考えてもいなかったという発見だ。着替えをするときだって、風呂に入るときだってヘソの穴は、確かに自分の目に映ってる。でも、体の真ん中に空いた小さな穴を意識したことはなかった。だから、今のぼくはまるで自分のヘソを初めて発見したかのよな驚きさえ感じている。これは、ぼくが自分自身の体に無頓着過ぎるだけなのだろうか?
 ヘソと言えば、物事の中心を表す慣用表現として用いることがある。ぼくも時々使う言葉だ。だから、ぼくにとってヘソは人体のパーツというイメージはなく、慣用表現上の存在でしかない。それは、重要なポイントを「キモ」と呼ぶが、このときに肝臓だとか膵臓だとかをリアルに想像している人が少ないのと同じである(なお、友人に肝臓をマスコット化するほど好きなヤバいヤツはいるがコイツは例外だ)。だから、ぼくにとってヘソというのは想像上の非実在存在に極めて近いものだった。それは、妖精とかに近い存在とも言えるほどである。
 だが、現実は小汚い小さな穴でしかなかった。
 無様に赤剥けとなっているヘソを見て思うのは、「ヘソのゴマを取ってはいけない」という教えの大切さである。一見すると「小さなことを執拗にほじくり返してはいけない」という意味のスノッブな比喩的な表現にも聞こえるこの教えだが、そんなことはなかった。むしろ、超実践的な健康と衛生まつわる教えだったのだ。身をもって理解できた。
 それにしても、この痒みの原因は一体何なんだろう?まったく見当がつかないが、とりあえず軟膏を塗り込んで対処している。ヘソに軟膏を塗っていると、なんだか体の中まで入っていきそうな不安感がある。ヘソに指を突っ込めば、腸まで直接届きそうに思えてならない。こんな穴のこと気が付かなければよかった。