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鳥の名は

by 唐草 [2017/12/20]



 山の上にある職場を歩いていたら、植え込みの中から小さな電動ドリルが空回りしているような音が聞こえてきた。本当に植え込みの中でドリルが動いていたら割と危険な状況だ。主を失ったドリルが何でもいいから穴を穿とうと暴れ回っている姿を想像すると身の危険を感じてしまう。
 でも、慌てたりしない。ぼくはこの規則正しい機械的な音の正体が、本当の機械でないことを知っている。どう聞いても機械が立てているようにしか聞こえないのだが、この音は野鳥が木を突いているときの音である。
 キツツキが木を突く姿は、コンコンコンと穏やかに木を叩いているように描かれることが多い。でも、これは大きな間違いだ。そんなゆっくりとしたペースでは木に穴を穿つことなんて出来ないし、木の中に潜んでいる虫だって足早に退散してしまう。野生とはシビアな戦いの連続である。自然に牧歌的なイメージを求めるのは、都会に暮らす人間の幻想でしかない。実際のキツツキは、1秒間に10回ぐらいのペースで攻撃的に木を突いている。その姿も、その音も工作機械そのものである。
 キツツキ(ケラ)の姿を求めてぼくは、植え込みを覗き込んだ。でも、そこにいたのはキツツキではなかった。
 何度か見たことはあるが、姿と名前が一致しない小さな野鳥がいた。オレンジ色の腹が目を惹く色鮮やかな野鳥である。スズメよりは大きいが、ムクドリよりはずっと小さく片手に収まりそうなサイズである。
 えーと、こいつの名前はなんだっけ?考えてもサッパリ名前が出てこない。ぼくがクネクネと頼りない動きをしながら鳥の名前を思い出そうとしているうちにオレンジ色の腹をした鳥はどこかへ飛んで行ってしまった。名前が、喉元まで出かかっているもどかしさすらない。ようするに、ぼくはこのオレンジ色の腹をした野鳥の名前をまったく覚えていないと言うことだ。
 考えていても埒があかないので、いかにも素人っぽい「野鳥 オレンジ色の腹」で検索を行う。Google先生は、頭の悪そうな検索ワードに呆れることもなく結果を返してくれた。画面には、先ほどまでぼくの目の前にいた鳥によく似た鳥が写っていた。間違いない、こいつだ。
 『ジョウビタキ』
 それが、ぼくの目の前にいたオレンジ色の腹をした野鳥の名前だった。