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緩やかな劣化

by 唐草 [2018/12/12]



 少し前に書いたことだが、ひげ剃りの劣化に気がつくのは容易なことではない。剃り終わった自分の顔が血だらけなのを見てようやく気づく場合がほとんどだ。しかもぼくは鏡を見ないで手の感覚だけを頼りに剃っているので、タオルが赤く染まって初めてことの重大さに気がつくのである。何もかもが手遅れだと言わざるを得ない。
 身の回りには、ひげ剃りのように一度の変化には気が付けないぐらいちょっとずつちょっとずつ劣化していくものに溢れている。そんなことに立て続けに気が付かされている。
 先日、歯ブラシを交換した。ちょっとブラシの毛が開いてしまったぐらいの認識しかなかったのだが、交換してみたらその違いに愕然とした。ブラシの毛のコシが全然別物なのである。細い毛の1本1本が力強く立っている感じがする。この硬さとコシを理解してしまうと、交換前の歯ブラシは産毛でできた筆のように柔らかく感じられてしまう。あまりに違う感触に「昨日までの歯磨きに意味はあったのだろうか?」と自問さえしてしまったほどである。
 今日は、おろしたてのヒートテックの下着を身に付けた。そして、またしても驚かされたのである。熱いほどに発熱しているのである。なんとなく暖かいような気がするなんて生ぬるいレベルではない。カイロでも貼ったのではないかと勘違いしてしまうほどに熱いのである。その暑さ故に発汗して、さらに温度を上げていく。低温火傷しても不思議ではないと恐怖さえ感じる暖かさだった。ノーマルのヒートテックでも新品はこんなに高性能なのか。
 残念なことにこの新鮮な驚きは長続きしない。ぼくが慣れてしまうというのも一因だが、それ以上に劣化による影響が大きい。1ヶ月も経てば歯ブラシは柔らかくなっているだろうし、1シーズン経てばヒートテックもただの化繊の下着に成り下がっていることだろう。
 今日と半年後の違いはどんなに大きくても、每日穏やかにダメになっていくのでぼくは劣化していることに気が付けないままだ。柔らかい歯ブラシでせっせと歯を磨き、発熱していない化繊の下着が温かいと信じて体を震わせている。そして、髭を剃って血を流しているのである。
 ものを大切に長く使うことは、美徳とされている。使い捨てという発想は、もはや過去の過ちとして認知されている。でも、何もかも長く使えばいいというわけではないのだろう。穏やかな劣化に気がつけないでいると、いつの間にか一人負けして損をしているかもしれない。もう少し変化に鋭敏にならないとなぁ。