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昼食は血の味

by 唐草 [2017/11/08]



 今日の昼食は、おろしポン酢添えの和風な味付けのチキンソテー。しっかりと焼かれた鶏皮が良いアクセントになっていた。
 少し固い何かが咀嚼するぼくの歯にぶつかった。鶏皮の歯ごたえではない。胸肉なので軟骨ではないだろう。おそらく筋の硬いところだろう。このまま噛んでしまって問題無い。そう判断して顎に力を込めた瞬間のことだった。
 肉の固い部分を噛み切った後に、ザラッとしたイヤな歯ごたえが口の中に広がった。同時に熱さを連想させるような痛みが全身を走り抜けた。
 あとの歯ごたえは鶏肉じゃない。舌だ。自分の舌を思いっきり噛んでしまったんだ。
 叫び声こそ上げなかったが、きっと「うぅ」と小さくうめいたことだろう。反射的に慌てて口元を手で押さえるが、痛いのは口の中の舌の一部なので手を当てたところでなにもならない。
 痛みを堪えて口の中に残っていた鶏肉を飲み下す。
 どの歯で噛んでしまったが分からないが、舌先に直角な傷ができているような妙な違和感がある。歯が直角に2本生えているほど歯並びは悪くない。なぜ痛みが直角を感じさせるのかは分からないが、どうすることもできないまま口元を抑え続けていた。
 しばらくすると酸っぱいものを食べたときのように口の中に唾液が溜まってくような感覚が強くなってきた。でも、頭の中でレモンを思い描いたときのように舌の裏から何かが出てきている感覚はない。舌の裏から出はなく、舌の先から何らかの液体が分泌され続けている。
 小さく口を開けて紙ナプキンをそっと舌先に当てる。白い紙ナプキンには、予想通りに鮮やかな赤い染みがあった。
 この液体は血か!どおりでなんか変な味がする訳だ。
 先ほどまでガツガツ食べていた皿の上には、肉が一切れ残っている。食べるか?残すか?
 残すのはもったいない。食べ物への感謝か?それともケチな性分が残すのを許さなかったのか?はたまた痛みで判断がおかしくなっていたのか?よく分からないが、肉を残さず食べる決意をした。
 痛みを堪えて食べた肉は、自分の血の味しかしなかった。