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10cm高い

by 唐草 [2018/09/21]



 昨日は、午後から雨が降った。注意深く天気予報を聞いていれば、まだ空から雨粒が落ちていなかった午前7時に家を出たとしても傘に手を伸ばしただろう。でも、目を開いているだけで脳はまだスヤスヤと寝ていたぼくに、気象予報士の声は届いていなかった。
 日も沈んだので仕事を切り上げ家に帰ろうとしたとき、空からは11月を思わせるような冷たい雨が降っていた。職場からバス停までのちょっとした距離を歩くだけでも下着まで冷たく濡れてしまいそうな雨脚だった。イギリスかぶれのぼくは、傘を手に持っていたとしてもちょっとした雨だと傘を差さないこともある。目の前に降っている雨の量ならば、きっとイギリス人だって躊躇なく傘を差すことだろう。
 普段通りぼく一人だったら、きっと周囲の迷惑を顧みずに濡れ鼠になることを選んでいたかもしれない。でも、昨日は偶然にも友人とともにいた。彼は、ちゃんと天気予報を聞いていたのだろう。その手にはしっかりと傘が握られていた。濡れることを厭わないぼくを見かねてか、傘に入れてくれた。
 男2人の相合い傘である。それも、オッサン。コンビニで売られているようなビニール傘を2人でシェアしているので、ハッキリいって狭い。どうしても片腕だけは濡れてしまう。なんとも窮屈な状態となっていた。BL好きの一部の人は喜びそうなシチュエーションかもしれないが、三次元の世界は残酷である。傘の下には、優雅さも華やかさもなかった。ただただ、目を覆いたくなる光景が広がっているだけだったことだろう。
 ふと、入れてもらっている傘に目をやるととても高いところに浮かんでいるように見えた。ぼくが自分で傘を差すときよりもずっと上にある。
 友人とぼくは、公称で10cmぐらい身長差がある。ぼくが数センチサバを読んでいるので、実際には12cmぐらいぼくの方が背が低いはずだ。その身長差は、そのまま傘を差す位置の差になる。実に当たり前のことである。
 でも、そんな当たり前のことに初めて気がついた。
 普段1人で傘を差すとき傘の高さは、いつも同じである。今日はちょっと高めに差そうと思うことは、まず無い。だから、無意識のうちに自分にとっての傘の位置というイメージが強く形成されていることに初めて気がついた。
 ひょっとしてこれが相合い傘の魅力なのか!?一般的に女性の方が小柄なので、男女ペアの相合い傘だと昨日のぼくのように身長差を感じることも多いだろう。そこにトキメキとかを感じるのだろうか?
 なお、昨日のぼくが感じていたことは唯一つ。「傘が高いので、自分で差したときよりも濡れるな」という友人の好意を踏みにじるようなことだけである。