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傘を買え

by 唐草 [2018/09/04]



 雨が降るたびに思うことがある。灰色にくすんだ空を見上げて物思いに耽るとかそういう感性の尖そうなことに思いを巡らせるのではない。ぼくは、もっと現実的な人間である。
 「傘を買わなくては」と思うのだ。
 とはいえ、傘を持っていないわけではない。ぼくが今持っているのは、ビニール傘だけ。ビニール傘でも雨はしのげるけれど、今日みたいな台風が来ているときにはあまりにも心もとない。強い風が傘を空へと運ぼうとするたびに、これまで幾度も目にしてきたビニール傘が壊れる映像が脳裏を過るのである。
 激しい風とともにやってきた台風21号。容赦ない風が、無計画な早期帰宅命令を受けた人々の間を走り抜けていく。風が吹くたびにビニール傘がひっくり返り骨が折れて、やっかいな尖ったゴミへと姿を変えていた。幸いにもぼくは傘を守ることに成功したが、その代償としてかなり濡れてしまった。これは、本末転倒な結果だ。
 風に負けないちゃんとした傘を買うべきなんだ。
 そのことは頭ではわかっている。でも、電車がいつ止まるとも知れぬ今日、傘を買うのは得策ではない。ゆっくり傘を選んでいたら電車が止まっていたなんて事になったら目も当てられない。今日は、帰宅部の全国大会のような勢いで家路を急ぐべきなのである。
 晴れの日に傘を買うのは難しい。自分が傘を持っていない限り、傘のことなんて考えないからだ。だとすれば、雨の日に買うしかない。そうは分かっているのだが、雨の日はすでに傘を手に持っている。そのまま傘を買ったら、傘の二刀流となってしまう。1本だけでも傘をさしているとただでさえ手がふさがって厄介な思いをすることになるというのに、2本の傘を同時に持つなんて面倒なことはとてもしたくない。ものぐさなぼくは、手荷物が増えることを嫌って雨の日にも傘を買おうとしないのだ。
 結局の所、ビニール傘でどうにかなってしまうので、新しい傘は買わずじまいのままとなってしまう。
 いったいどんな条件が揃えば、ぼくは新たな傘、それもビニール傘ではないちゃんとした傘を買えるのだろうか?このまま一生ビニール傘だけで生きていくことになりそうな気がする。