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サルでもナスでも

by 唐草 [2018/08/21]



 自分が正しくても周囲の全員が間違えていると「ひょっとして自分が間違っているのでは?」と不安になることがある。ましてや、自分に自信がないときに間違いを見せられると何が正しいのか本当に分からなくなる。自分が正しいのか?それとも自分が間違っているのか?そんな迷いを抱えていると、ドンドンドツボにハマっていく。最終的には、世界に1人取り残されたような不安感に包まれることになる。
 先日、ディスカウントショップのペットコーナーに猫の餌を買いに行ったときのことだ。リードや首輪などの犬の散歩道具を扱っているコーナーが目に入った。そこには「各種カナビラ取扱中」と書かれていた。
 ん?カナビラ?
 なんか違う気がするぞ。売り場に目をやると、ぼくの想像通り輪っか状になった金属の部品が売られていた。
 「あれは、カナビラではなくてカラビナでは無いだろうか?」ぼくの脳は、そう囁いている。でも、だからといって鬼の首を取ったような勢いで店舗に書かれた文字を間違えだと指摘する自信もない。金属製の部品だし「カナビラ」が正しいようにも思えてきてしまう。
 スマホを持っていなかったので、店舗で結論を出すことはできなかった。買い物を終えた頃には、小さな金具の名前のことなんてすっかり忘れていた。
 ところが、今日なんの前触れもなく件の金具のことを思い出した。手元にタブレットがあったので、早速検索をしてみた。
 集合知は、ときに真実を霧の中に隠してしまう。それは、多数決の結果が常に最適解ではないのと同じである。
 「カラビナ」で検索しても、「カラナビ」で検索しても、「カナビラ」で検索しても、画面には似たような金具が表示されてしまうのである。
 これはつまり、世の中の多くの人が間違えまくっているというビッグデータである。どの検索結果も数万件を数えている。数人の勘違いとかそういう些細なレベルではない。もはや、どれを正解としても差し支えないほどに各名称が浸透しているようだ。
 この結果を目にして、ぼくの自信はますます揺らいでいった。
 一応、Wikipediaには「カナビラ」として掲載されている。日本人が間違えやすいこの語はドイツ語らしい。しかし、ソースがWikipediaしかない心もとなさ。レポートだったら不可になっても不思議はない心細さである。
 なお、カナビラを日本語にすると「鐶(カン)」になるらしい。ただ、鐶は鐶で「ナスカン」や「サルカン」など様々なバリエーションがある。どれが「ナス」で、どれが「サル」なのかよく分かっていない。カナビラファミリーは、名前も形も何もかもがあやふやである。それなのに、身の回りには驚くほど転がっている。深く考え混乱しすぎたせいで、カナビラの存在がなにか示唆的なものにさえ思えてきた。