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Lになりたい

by 唐草 [2018/12/22]



 先日、ボールペンの替え芯について書いた。あんなことを書いたのには、きっかけがある。もったいぶる程のことではないし、すぐに想像できると思うので素直に白状するが、愛用のボールペンのインクが切れてしまったのだ。何のドラマも驚きもないつまらないきっかけでしかない。
 こんなつまらないことでも、ぼくにとっては一大事である。性格的に必需品が不足しているのに耐えられないので、一刻も早く替え芯を買いに行きたかった。でも、どこの店でも良いというわけではない。
 ぼくのボールペンの替え芯は、PilotのBRFS-10シリーズである。多色ペン用の短い鉄芯というちょいとマイナーな商品なので取り扱っている店は少なく、大きな店に足を運ぶ必要がある。だから、ぼくはいつもLOFTに芯を買いに行っている。
 替え芯の値段は108円。たったそれだけの商品を買うためにわざわざ出かけるんだからぼくのボールペン愛もなかなかのものである。
 目に鮮やかな黄色い看板を横目に店内のボールペン売り場へと向かう。棚の上部には色鮮やかな様々なペンが売られている。でもぼくの求めるものはそこにない。替え芯は、まるで華やかな店内から隠されるように棚の下にある小さな引き出しに収められている。床に座るような姿勢で似たような名前の製品の中から目的の品を探す。
 それにしても今日はやたらと店内が混んでいる。何度も来ているがこんなに混んでいるのは初めて。棚の前で小さくなって商品を探していたら、別の客を案内していた店員が激突してくるほどの混雑だった。まるでぼくのことなど初めから見えていなかったような見事な当たり方だったし、忙しそうな中ゴミ箱を漁るネコのように棚を引っかき回しているこちらが申し訳なくなるほどだった。
 ようやく目的の替え芯を見つけてレジへと向かった。レジには若い男女が長蛇の列を成していた。そしてレジカウンターの中では大勢の店員が右へ左へと忙しなく動いていた。
 その瞬間、ようやく気が付いた。この混雑はクリスマスのせいなのだと。
 よく見たらレジカウンターの奥では商品を包装紙でラッピングしていたし、レジにならぶ人々が手にしているのは何となくキラキラした雰囲気のあるものか、はたまた暖かそうなものばかりだった。それも、ちょっとお高そうな品である。絶対に誰かへのプレゼントに違いない。
 明らかにぼくだけ場違いなのである。全身黒ずくめのオタクファッションに身を包み、手にしているのは握って隠せば容易に万引きできそうなグレーの包み。ぼくの周りだけ色がないのである。ここだけモノクロなのだ。
 まるで異世界へ放り込まれたかのようである。「皆さんの楽しいクリスマスに黒い染みを作ってごめんなさい」という気持ちしかない。LOFT看板の太い黒字のLの中に逃げ隠れたいと心の底から願ったレジ待ちの数分だった。