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ハイテク機器の正体

by 唐草 [2020/02/12]



 歯医者へ行ってきた。幸いなことに虫歯ではない。先月歯科検診で古い詰物の割れが発覚した。放置していると外れるかもしれないので詰物の修復が必要らしい。
 問題の歯は20世紀末に処置したと記憶している。人生初虫歯だったので、歯医者ってどんなに恐ろしいところなんだろうと恐怖しながら治療を受けた記憶がある。結局のところ不安はぼくの杞憂でしかなく、近代化された歯科治療は患者の負担の少ないものだと知ったのである。
 それから20年の歳月が流れ、樹脂製の詰物は素人が見ても分かるほど大きく欠けていた。今日は詰物の取り換えを行った。
 いつものように歯科ドリルを口に突っ込まれた。グイングインと高い唸りをあげるドリルは、古い詰物を削っているのだろう。どんなドリルなのかを見てみたい好奇心に駆られたが、ぐっと我慢して目を閉じていた。
 ドリルが終わると次は、歯に粘着質のものを押し付けているような感覚に変わった。きっと新しい詰物になる樹脂をねじ込んでいるのだろう。口に伝わるわずかな感覚から推測するに、先の尖った金属の棒で樹脂を置いているようだ。この推理があっているかを確認したかったが、ぐっと堪えて目を閉じ続けていた。
 次の治療器具が口に飛び込んできた。歯に当たる感触もあまりないし、何かが動いている感じもしない。ただの棒を口に突っ込まれただけのように感じた。
 次の瞬間、「ピッ、ピピピッ、ピー」と連続した電子音が響いた。この音、ゲームで似たような音を聞いたことがある。SF系のゲームに出てくるエネルギー銃のチャージ音だ。テンポが早くなる電子音は、絶対に何かをチャージしている音に違いない。
 治療手順を考えると歯に詰めた樹脂を固めているはず。電気を通しているのだろうか?刺激がなから違うだろう。紫外線を照射しているのだろうか?
 素人が考えてもよく分からないが、ひとつだけ確かなことがある。今ぼくの口の中にはハイテク機器が入っているという事実だ。いったいどんな機器なのだろうか?LEDがピカピカと光っているのだろうか?治療開始からずっと好奇心を抑えつけて目を閉じていたが、もう我慢できなかった。どうしてもハイテク機器の姿をひと目見たくなった。
 そっと薄目を開けて様子を探った。
 ぼくの目に飛び込んできたのは、歯科医の太い腕だけだった。