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南国っぽさ

by 唐草 [2019/12/27]



 テレビをつけたら、ゆるい旅番組が流れていた。ぼくは旅に出ることはまずないが、旅番組は結構好きなのだ。
 長期的な計画が苦手なぼくは、「いつ休みを取るか」とか「どのホテルに泊まるか」といった旅の計画を建てるのが苦痛でしかない。性格的に思い通りに事が運ばないとイライラしてしまうので、行きあたりばったりの旅なんて器用なこともできない。人見知りな性格も旅には不向きかもしれない。知らない飲食店に入るのを避け、どこへ行ってもコンビニで済ませてしまうことだろう。ましてや、外国なんて言葉の壁の暑さと高さと険しさを想像しただけで胃が痛くなる。
 その一方で、見知らぬ風景を見てみたいという好奇心はある。空気を肌で感じながら自分の足で歩き回ってスケールを体感してみたいという欲求もある。他の地域に暮らす人々が、どんな場所でどんなものを食べているかも知りたい。
 ぼくの中では、旅に対する相反する考えがぶつかりあっている。衝突の結果はいつも一緒だ。ぼくは今日も自室でゴロゴロしているだけ。
 そんなナマケモノのようなぼくにとって旅番組は、何も計画しなくていいし、適度に好奇心を満たしてくるちょうどいい娯楽だ。自宅にいながらにして、世界中の至るところを見ることができる。自分では絶対行けない秘境の姿も目にすることができる。
 今日、見た番組では沖縄のどこかの島を訪れていた。ぼくは沖縄を訪れたことがない。だから沖縄に対する知識は、メディアを通して知ったステレオタイプなものしか持ち合わせていない。
 画面に映っていた沖縄の住宅街の映像は、薄っぺらい知識しか持ち合わせてないぼくのイメージとは全然違っていた。秋の収録ということもあり南国らしい強い日差しはなかった。高い建物が全然映っていなかったので田舎な感じこそすれ、沖縄だと感じる要素は何もなかった。ありふれた日本の片田舎の長閑な風景でしかなかった。
 しばらくしたらテレビの中の風景は、住宅街から畑へと移った。そのシーンになって、ぼくはようやく画面から南国の気配を読み取ることができた。
 植物が決定的に違っていた。街路樹はヤシの木のようなしなやかな葉を茂らせていた。畑に植わっているのは、風に長い葉を揺らすサトウキビだった。あぁ、画面から南国情緒が溢れてくる。
 そうか、ぼくは白砂の青い海以外にも植物の植生から南国を感じ取っていたのか。考えてみれば当たり前のことに、改めて気が付かされた気がする。