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ヤツの出没

by 唐草 [2018/10/30]



 昨晩、風呂上がりに水を飲もうとしたらシンクの脇に茶色いものが落ちていた。なんだ、これ?2秒ぐらい考えて、最悪な結論に達した。
 忌み嫌われるあの茶色いヤツで間違いない。そう、いわゆるGである。
 Gの出没はいったい何年ぶりだろう?数年前に出没したときは、我が家の裏にある築50年ぐらいのオンボロアパートにリフォーム工事が入ったときである。工事で行き場を失ったGが、我が家に避難してきたのが最後である。
 とにかく、ぼくにとってGは縁遠い存在である。
 風呂上がりのぼくはパジャマだけの軽装備。Gを倒すための装備はなにもない。このままでは何もできない。一旦退いて装備を整えてこよう。
 殺虫スプレーで仕留められれば良いのだが、猫がいる屋内で殺虫スプレーを使うことはできない。取りうる選択肢は、鈍器で叩き潰すか、ゴキブリホイホイのような設置型の罠を仕掛けるかのどちらかである。昆虫嫌いのぼくとしては叩き潰すのはなんとしてでも避けたい。Gが動くたびにヒーヒー言ってへっぴり腰で逃げ回ることになるのは目に見えている。それに潰したGを片付けるのも嫌だ。
 もしかしたら前に使った罠が残っているかもしれない。一縷の望みを託し物置部屋を徹底的に捜索した。だが、数年前に使ったホイホイなんて残ってはいなかった。
 もう直接叩き潰すしか道は残されていない。でも、それだけは避けたい。
 自分の手は汚したくないので猫をけしかけることにした。猫にとって小さな虫は、おもちゃにしか見えないのだろう。家に迷い込んだ哀れな蜘蛛とかカナブンとかが何匹も犠牲になってきた。だったら、その暴力性を家の平和のために使ってくれ。
 しかし、ぼくの願いは通じなかった。寝ている猫を抱えてGの方を向かせたのだが、つきたての餅のように手足をだらしなく伸ばして抱かれたまま寝ていた。まったくGの存在に気がついてはくれなかった。
 この役立たずめ。猫に期待をしたぼくがバカだった。
 策は尽きた。明日、ホイホイを買って設置しよう。もう今日は練る。すべてを諦めてぼくはベッドに潜り込んだ。
 だが、ぼくは眠りながらもずっとGのこと考えていた。やはり気になって仕方がなかった。だから叩き潰すことを辞さぬ構えで、もう一度猫とともに戦うことを選んだ。飛ばれる前の先制攻撃でとどめを刺した。
 と思ったら夢だった。夢だったのは、Gと戦った部分だけ。出没は紛れもない事実のままである。夢に見るほどぼくは、Gのことに悩んでいたのである。
 夢で見たあの過酷な戦いをもう一度経験しないといけないのかと思うとうんざりである。