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えん麦

by 唐草 [2019/09/07]



 猫は肉食動物であるにも関わらず草を食べる。このことは猫と暮らしたことのない人でも聞いたことがあるだろう。猫の中にはほうれん草が好きだとかいう変わり者もいたりするが、それは人間にもゲテモノ食いがいるのと同じこと。大抵の猫は、単子葉植物の細い葉をシャクシャクと奥歯で噛みながら食べていく。猫缶を与えたときよりも満足げに目を細めて葉を食べている顔を見ると、実のところ猫は雑食なのではないかという思いさえ湧いてくる。
 生物学的に猫が草を食べる理由は、身繕いで飲み込んでしまった猫毛をヘアボールとして吐き出すために食べているという説が有力だ。あえて消化できない草を食べることで、効率よくゲロを吐こうという進化の果ての行為だそうだ。人間だったら喉の指を突っ込んで吐こうとしているようなものである。確かに草を食べるとヘアボールを吐くことが多い。でも、食べた草の多くは口からではなく尻の穴から他の食べ物と同じように排出されている。これを思うと猫が草を食べるのは、人間がお通じを良くするために食物繊維を摂るのと同じように思えてくる。
 我が家の猫は室内飼いだ。だから、猫たちのためにわざわざ猫草を育てている。日常的に食べる餌は既製品のカリカリフレークなのに、吐かせるための草は獲れたて新鮮の家庭菜園育ちである。なんだかアンバランスな気もするが、猫のために肉や魚を育てることなど出来はしない。
 育てている猫草は「えん麦」という名前で売られている草。聞いたことのない名前の植物である。いつも新芽のうちに猫に食べさせてしまう。細い単子葉の葉は名前の通り麦の新芽を思わせるが、成長したらどんな植物になるのかは分かっていない。それどころか、「えん麦」の「えん」がどんな漢字なのかも分かっていない。何も分かっていない植物を猫に与えているのである。
 好奇心が湧いたので「えん麦」の「えん」がどんな漢字を書くのか調べてみた。
 「燕麦」と書くのが正しい漢字表記だそうだ。そして、「燕麦」は一般的には「オーツ麦」という名前で親しまれているということも明らかになった。
 オーツ麦といえば、夏のぼくの朝食を支えるグラノーラの中身のひとつだ。つまり、ぼくは「えん麦」の実を食べ、猫たちは「えん麦」のベビーリーフを食べていたということになる。
 なんだ、猫と同じものを食べていたのか。小さい頃、猫とおやつの煮干しを奪い合って育ったぼくらしい食生活だな。