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深夜に数学を

by 唐草 [2021/02/24]



 入学の試験監督をした際に問題に目を通していたが、何もかも忘れていて手も足も出せなかった。全科目の中で一番打ちひしがれたのは数学。三角関数や2次方程式が解けなくなっていて目の前が真っ暗になった。日常的に使わないとはいえ、こんな基礎まで忘れているなんて。
 解けなかったのは、方程式や公式を完全に失念してしまったから。試験時間中に暗算だけで公理から方程式を導き出す余裕はなかった。
 受験生以上に心に傷を負った試験から1ヶ月が経過したが、未だに2次方程式の解の公式を忘れていた事実に打ちひしがれていた。この傷を癒やすには、教科書を読み返して公式を思い出すのではなく、自分で公式と己の実力を証明するしかない。そう思い至って、深夜2時に鉛筆を手に取った。
 まずは、y = ax2 + bx + cの解の公式を求めることにした。
 鉛筆さえあれば、こんな式を解くのは深夜でも朝飯前。あっさりと√が入った美しくない解の公式を導くことに成功した。
 少し自身を取り戻したぼくは、三角関数の和の公式の証明にも挑んだ。sin(a + b)を分解できる便利な公式で、受験期にはお世話になったのは覚えている。三角関数なので紙に単位円を書いて視覚的に式に取り掛かった。
 1時間考えてもサッパリ解けなかった。考えているうちに古い語呂合わせの記憶が蘇ってきて「サイタコスモスコスサイタ」と口ずさんでいた。頭をフル回転させたことで脳の奥底で眠っていた記憶を呼び戻せたようだ。
 語呂合わせを思い出せただけでは満足はできなかった。やはり自分で公式を導きたい。そんな思いとは裏腹に、どれだけ頭を捻っても証明の方法を思い出すことも、思いつくこともできなかった。
 更に1時間経過して、ついに負けを認めて本棚にある高校時代の数学の教科書を手にとった。不思議なことに教科書は、高校時代に使っていたときよりもずっと小さく感じられた。
 数IIの教科書をパラパラめくって目的のページを開く。そこにはスマートで非の打ち所のない美しい証明が記載されていた。ところが、ぼくはその証明を見ても何も思い出さなかった。初めて見たとしか思えない新鮮さすらあった。高校時代のぼくは、導き方なんて気にもとめずに公式を丸暗記していただけのようだ。