カレンダー

2021/02
 
      
       

広告

Twitter

記事検索

ランダムボタン

ローマ字はセキュア

by 唐草 [2021/02/09]



 パスワードは現代人に課せられた苦役だ。人類史を紐解いても個人が今日のようにいくつもの秘密の言葉を心の内に抱えていた時代なんて無い。
 新たなサービスを利用するたびにパスワードは増えていく。このままパスワードが増えていったら、ぼくの小さくシワのない脳では記憶できなくなる日も近い。パスワードを覚えるのも一苦労だが、同じぐらい考えるのも面倒だ。8文字以上にしろとか、辞書に載っている言葉はダメだとか、数字や記号を入れろとか様々な注文を付けられる。
 こうしてパスワードにまつわる苦労を重ねていく内に、ぼくたちは安全性より楽さを選ぶようになっていく。同じパスワードを使いまわしたり、単純な言葉や数字をパスワードに設定するようになっていく。人間が自由にパスワードを決められる限り「password」や「1234」を含むパスワードは利用され続けるだろう。
 こういういい加減で楽を好むユーザを排除するためにシステム側の注文が増えていく。その結果が、今のややこしいルールだ。もはや人間が使う言葉をパスワードに設定できなくなりつつある。
 だが、日本語のローマ字表記はまだ規制の対象になっていない。少なくともぼくは、ローマ字を使った日本語パスワードに文句を付けられたことはない。だから最近はパスワードの一部に日本語を使うようになってきた。そして、これが意外にセキュアかもしれないという事実に気がついた。
 ポイントは、ローマ字表記は人によって「揺らぎ」があるという点。
 例えば「つ」を書く時「tu」と書く人もいればヘボン式に倣って「tsu」と書く人もいる。「し」でも同じようなことが言える。また「こう」のように「お」と「う」の音が続くときも「kou」と書く人もいれば「ko」だけで済ます人もいる。筆跡のように表記の揺らぎが緩い個人の特定になる。これってパスワードに利用するのにちょうどいい。
 このことに思い至ったのは、共有パスワードを口頭で受け取ったことに端を発している。それは「こうつう」みたいなパスワードだった。ぼくは「kotsu」と打ったが全然ダメ。正解は「koutu」だったのだ。
 ローマ字に新たな可能性を発見したような気がする。