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酔わない

by 唐草 [2021/10/08]



 ぼくは小さな子供の頃から頻繁に乗り物酔いする子供だった。酔いやすい船は当然のこと、自家用車、バス、電車から飛行機に至るまでエンジンの付いている乗り物のおよそ全てで酔ってきた。大人になっても酔い易いことに変わりがなく飛行機に乗るたびに乗り物酔いと時差ボケのダブルパンチでノックアウトされてきた。結果として、ぼくは日本に留まらず、北米大陸で、そしてヨーロッパでもゲロを吐いてきた。ゲログローバルな人間だ。
 そんなぼくだから、乗り物の中で本を読むのは自殺行為に等しかった。活字でなくても酔う。旅先でギャグマンガの新刊を買って帰りの特急の中で読んでかなり危険な状態に陥ったことをよく覚えている。座席予約した特急なので降りるわけにもいかず苦しみに絶えた。周りからすれば、ニヤついていたと思ったら急に顔が青くなるというかなりやばい人に見えただろう。
 苦い記憶はたくさんあるが、ここ最近のものはほとんどない。それどころか、通勤の暇つぶしは紙の雑誌を読むというのが今のぼくのブーム。この時代にあえて紙の雑誌を読むというのは前時代的かもしれない。でも、スマホでネットを眺めているよりも有意義な時間を過ごせているように感じられる。
 バスで15分、電車で20分ぐらいの通勤時間だが、その間ずっと雑誌に目を通していても、吐き気も目が回ったような感じもしない。自分の部屋でくつろぎながら本を読んでいたときとほとんど一緒。いったい何がこの良い変化をもたらしたのだろう。
 電車で酔わなくなったのは車両のサスペンションの進化のおかげかと思っていた。でも、バスでも酔わなくなっているので乗り物の進化だけではないのだろう。ぼくが強くなったと考えて問題なさそうだ。だとすれば、なにがぼくを強くしたのだろうか?
 この10年で電車の中でスマホを使う機会は爆発的に増え、今やスマホ依存である。何年にも0渡って酔いながらも小さな画面の中の文字を追い続けてきたことで、ぼくの三半規管は徐々に鍛えられたのかもしれない。そうだとすれば、依存のもたらした唯一の成果と言える。
 今なら酔止薬無しで太平洋を超えられるかもしれない。