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奇数本の謎

by 唐草 [2021/10/28]



 ビデオ通話を介して取引業者と打ち合わせがあるというのにヒゲを剃るのをすっかり忘れていた。
 マスクで無精ヒゲを隠せる楽さを覚えてしまったので、ぼくの生活リズムの中から髭剃りというタスクは消え失せていた。そのツケが、よりによって本来ヒゲを剃らなくても問題のない在宅勤務のさなかに巡ってくることになろうとは。
 ぼくは普段T字カミソリでヒゲを剃っている。蒸しタオルでヒゲを蒸らしている時間どころか、蒸しタオルを作る時間すらままならない今回のような急場にはめっぽう弱い。だからと言って、このまま落ち武者のような髭面で打ち合わせに参加をしたら体調不安説を囁かれるだろう。間違ってもワイルドだとかセクシーだとかは言われない。
 数分でヒゲを剃るには、電気シェーバーしかない。便利で手軽な電気シェーバーだが、持っているのに滅多に使わない。それは、ぼくの貧弱な肌は電気シェーバーに全面的に負けるから。髭を剃っているのか、肌を痛めつけているのか分からなくなる。でも、今は四の五の言っている余裕はない。
 電気シェーバーに手元に転がっていたeneloopを投入してヒゲを剃り始めた。
 シェーバーを頬に当てている間、小さな違和感がぼくを包み込んだ。なぜeneloopが1本だけ余っているのだろう?という些細な疑問だ。
 家には合計6本のeneloopがある。自転車のライトに2本使っていて、今回シェーバーに2本使った。本来ならあと2本余っているはず。でも、目の前には1本しか無い。奇数本の余りが出るはずはない。
 単三電池を1本だけ使用する機器なんて我が家にはない。可能性としては、何らかの機器に普通の電池と混ぜて使ってしまっている方があり得る。だとすれば、どこにあるどんな機器に入れてしまったのだろう?家にある機器を順番に思い浮かべてみたが、皆目検討がつかなかった。そうではなく、どこかの隙間に転がり込んでしまったのだろうか?
 結局、打ち合わせの間ずっと肌が荒れた顎のヒリヒリを感じながら、電池の場所だけを考えることになってしまった。