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目を逸らす春

by 唐草 [2022/04/01]



 春は新しいことが始まる季節。裏を返すと何かが終わる季節でもある。教育に携わっていると新学期の始まりでもあり前学期の終わりでもある。
 授業を受け持つようになって10年ぐらい経ったが、今でも学期初めは緊張する。10年前の初めての授業は食事も喉を通らないぐらい緊張していて薬局で売っているプラセボ効果みたいな不安解消薬に頼ったのは懐かしい話。自分のスキルに自信が持てなかったゆえの緊張だった。そんな初々しい頃と比べれば、今の緊張なんて屁みたいなもの。寝坊と難読名を恐れている程度だ。
 だから新たに始まることへの緊張は、気分を重くするほどのものではない。それよりも終わったことの方が、ずっと気分を重くする。
 春、面倒なのが古い書類の処分。提出物など成績評価対象物は、予期せぬ事態に備えて数年の保管義務がある。これまで必要になったことは一度もないが、契約は契約。書き損じを捨てるような気分でレポートや出欠表を処分できないのだ。今年の授業が始まるということは、数年前の授業資料の処分ができるようになったということになる。
 遠隔授業になってからは、ほとんどの提出物がデジタルデータになった。保管期限は長いので手元にはコロナ前に卒業している学生の提出物が残されていて、あと数年はこの問題がつきまとう。
 気が重くなると腰も重くなる。
 実はこの数年、書類の処分を一切していない。期限内に処分してはいけないが、期限後に処分しなければならないわけではない。そんな屁理屈で大量の紙を放置し続けてきた。
 氏名や学籍番号が書かれたレポートや成績評価が記載された紙をそのまま捨てるのは御法度。シュレッダーにかける必要がある。だが、我が家のシュレッダーは壊れて久しい。面倒な作業を機械が壊れたせいにしてずっと放置し続けている。
 その結果がベッドの下を埋め尽くす紙束の地層だ。これが全部お札だったら5億円ぐらいありそう。そんなことを考えても気分は軽くならないし、処分が楽になるわけでもない。
 今の春もことなかれ精神を発揮して過去から目を逸らすことになりそうだ。