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形而学上の鬼

by 唐草 [2022/08/14]



 清酒「鬼殺し」の紙パックをポイ捨てしている迷惑野郎に「オーガキラー」とあだ名を付けていると書いた。ただ、一度も本人の姿を見たことはない。
 紙パックが現れる時間から類推すると夜にポイ捨てをしている可能性が高い。歩きながら飲んでいるようなので、間違いなくアル中だろう。コンビニでワンカップなどの日本酒を買っているのはオッサンが多いので、オーガキラーはきっとオッサン。でも、この推理は統計に基づくプロファイリング。オッサンだという思い込みが、オーガキラーを見つけられない要因かもしれない。
 ぼくは姿なきアル中ポイ捨て野郎にオーガキラーというあだ名を付けたが、これは鬼殺しを飲んでいるからだ。よく考えてみると酒に因むこの命名はおかしいかもしれない。
 「鬼殺し」という名は、強い鬼をも殺す強い酒という昔話のイメージにあやかっているのだろう。そんな昔ばなしの一場面を想像すると、酒を飲んでいるのは鬼退治をするオーガキラーではなくて鬼の方だ。なら、ポイ捨て野郎は鬼ということになる。
 いや、待て「鬼殺し」を飲んでもダウンしていないということは、ポイ捨て野郎は鬼より(アルコールに)強いと言える。となれば、やはり鬼を退治するオーガキラーの名が相応しいようにも思える。
 でも、「鬼殺し」を飲み干して空にしてしまうわけだから、それは寓意的にはオーガキラーを打ち負かすと解釈できる。だとすれば、ポイ捨て野郎はやっぱり鬼なのか?
 考えれば考えるほど、鬼なのか、それとも鬼を退治するオーガキラーなのかが分からなくなっていく。そして、ついには鬼というものがなんなのかさえも分からなくなってきた。鬼ってなんなんだ?
 今でこそ鬼は、赤や青といった人外な肌の色をして虎柄パンツを履いた筋肉質で大柄の人形の怪物という雛形ができている。でも、これって後世の創作でしかないらしい。本来は、人に害をなす天災や病気などの抽象的な概念を「おに」と呼んだとの説がある。
 ポイ捨てというスケールの小さな害だが、それでも害に違いない。そう考えると、ポイ捨て野郎は鬼だな。きっと酔って肌も赤いだろうし。