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緑色の手

by 唐草 [2022/10/15]



 先週部屋の照明を蛍光灯からLEDに替えたことで、ちょっと困ったことが起きている。ぼくの手が緑色になってしまったのだ。
 とは言え、ハルクやスーパーミュータントのような緑色の怪人に変身してしまったわけではない。LEDの照明にそんなミューテーションパワーがあったら世界人口の1/3ぐらいが緑色の皮膚になっているはずだ。
 ぼくの皮膚の色は変わっていない。その証拠に自室をでれば見慣れた血色の悪い黄色っぽい手に戻る。緑色になるのは、小さなぼくの部屋の中だけで起こる現象。その理屈はとても単純だ。
 これまで使っていた蛍光灯と新しく導入したLEDの色温度が異なることで、ぼくの目が幻の緑色を見出してしまったのである。
 使っていた蛍光灯は、わずかに赤みのある光を放つ昼白色だった。陽の光に近い色温度の低いタイプの照明だ。一方、新しいLED灯は安いモデルを購入したので3原色の揃った白色LEDではなく、青色LEDに黄色いフィルタをかけて白色光を再現している。そのせいでわずかに青っぽい光を放つ色温度の高い照明だ。この2つの灯りの色の違いが、ぼくを錯視の罠にかけている。
 長年ずっと見慣れていたのは、わずかにオレンジ色味がかった光に照らされた自分の手だった。ところが、今のぼくの手はわずかに青い光に照らされている。そのため、ぼくの脳内にある手の色のイメージよりもずっと赤みが弱い。それを見て緑色の手だと勘違いしているのである。これは腕の表面近くにある静脈が緑色っぽくみえるのに似た原理の色の錯視。人間の目が、いかに環境に騙されやすいかということの証明だ。
 このように理屈では、自分の手が緑色に見える理由を理解している。だけれども、実際に自分の手を見るとほんの一瞬だけ緑色に見えてしまう。1週間もすれば光に慣れて気にならなくなるかと期待していたけれど、残念ながらまだぼくの目は新しい光にまだ慣れていない。
 しばらくは自分の手を見てギョッとする毎日を過ごすことになるだろう。